マジック症候群2



 ヴァリアーの幹部に腕を引かれてザンザスが朝食の席へ向かうのは、もはやヴァリアー邸の毎朝の恒例行事だ。ザンザスと幹部一人の後ろをしずしずと歩くメイドの姿も合わせ、廊下には三人の影が伸びる。ザンザスが「歩きにくい」という理由でなくしてしまった絨毯の代わりに寄木細工の板が嵌めこまれた床に、コツコツと靴音が生まれる。

 階段を二階分下りて食堂へ入る。食堂と言っても幹部以上のみに許された食堂だ、室内には五人しかいなかった。


「おっはよーんボスゥ! 今日も眠そうねぇ!」

「……ん」

「昨日はアタシの仕事が長引いちゃったから、朝食はほんとーに簡単になっちゃったの。ごめんなさいね」

「ああ、気にしてない」


 毒見役を付けるせいで温かい食事を取れないなんてもったいない。ルッスーリアは自分がザンザスや幹部の食事を作ると宣言した時、いつも微妙に冷えた料理ばかり食べていたザンザスを慈愛の目で見ながらそう言った。――つまりは、可愛い息子には温かい手作りご飯を食べさせてあげたいのよという母性愛だろう。

 激務と言える任務をこなしつつ幹部全員の食事も用意する。生半可なやる気で出来ることではない。そういう点は女として憧れる、と彼女はルッスーリアの女っぷりを評価している。

 ルッスーリアが申し訳なさそうに今朝の朝食の貧しいわけを口にすれば、ザンザスは軽く頭を横に振った。


「ルッスーリアにはいつも有難く思っている。温かいメシを食えるようになった」


 ザンザスは甲斐甲斐しく椅子まで引くスクアーロの好意を当然のように受けて腰かける。その前に並ぶのは焼き立てのバゲットと茹で卵の入ったサラダだ。パンのお供は自家(ルッスーリア)製バター、ママ(ルッスーリア)の手作りジャムとママレード、ルッスーリア本人が買い付けに行っているハムだ。ちなみにルッスーリアの料理は、九代目がザンザス会いたさに朝食の席に乱入した時に「流石はヴァリアーのママだね」と唸ったほど美味しい。幹部のご飯の余りもの処理係って本当に役得よね――私の事だけど。

 そして始まった朝食の席には、いつも通りの光景が広がった。運が良ければ週に二回廻って来るザンザスのお世話係をはりきって遂行しているスクアーロと、明日は自分の番だからと妄想に震え鼻血を垂らしているレヴィ・ア・タン。それに気付いたマーモンがベルフェゴールに耳打ちしてナイフが乱舞する。しかし「食事中は大人しくなさい」とママの注意で喧嘩は起きず、いつものように朝食が終わった。

 ナフキンで口元を拭い、完全に覚醒したザンザスが最後に軟水を一気にあおる。


「今日も美味かった。――やっと目が醒めたな」


 キリリと表情を引き締めたザンザスだが、幹部たちの表情は親馬鹿のそれのままだ。


「ザンザス様」

「ああ」


 後ろから新聞を差し出せばバサリと広げて読み始める。ザンザスによれば「ネット新聞の何倍も読みやすい」らしい。


「こんなに立派になって……」


 幼少期を知らないはずのルッスーリアがハンカチで涙を拭い、それに同意するようにスクアーロやベルフェゴールまで感動の涙を流す。どこのカルト宗教団体と言うのだろうか。元々から親子じゃないんだし、そろそろ子離れすれば良いのに。――そう思っても、口には出さない。まだ死にたくないからね。

 一生子離れできそうにないのを見る度に、私はこの職場を選んで本当に良かったのか悩むのだ。





+++++++++
空也さんプッシュのため書いてみた。ちょっと雰囲気が違ってしまったのがなんとも。眠いような眠くない様な午前三時執筆は流石に駄目らしい。
10/13.2012

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