魔法使いの蛇



 父さんがジャーマンシェパードの軽種で母さんが黒蝮の重種という結婚なものだから、その一人息子であるオレは黒蝮の半重種ながら能力が高い。周囲の猿や犬や蛇や猫や……オレの年代は力の弱い奴が多く、同年代で知り合う奴等のほとんどが弱っちいのだ。十代半ばの上の層って言えば良いのか? 十代前半のオレたちの層と三つから七つ違う世代は強い奴が多いけどな。――だからオレが追うのはいっつも年上の背中で、身近に感じるのも年上の兄ちゃんたちで。


「はぁ? 国政の兄ちゃんにも米国の兄ちゃんにも相手が出来た? それも両方とも男?」


 母ちゃんが蛟同士の茶会でゲットしてきたという情報に、先ず「嘘だろ」という言葉が浮かんだ。


「国政の兄ちゃんならともかく、米国の兄ちゃんは重度の男嫌いじゃねーか。誰だよそんなガセネタ掴んできた奴」


 国政の兄ちゃんは斑類としての本能が強いから、運命の相手を見つけたら相手の了承を得る前に食っちまうだろう。けど、米国の兄ちゃんは「男に触れられることからして好かん」とキッパリ言いきってしまう程の男嫌いだ。


「いや、それがね、本当に本当らしいのよ」


 シロ君って言うんだって、と我がことのように喜んでる母ちゃん。嘘だろ? もう相手が見つかったのかよ。二十代後半なのにまだ相手が見つかってない渡嘉敷の双子にーちゃんとか青桐のでっかい兄ちゃんみたいなのもいるってのに。スゲーはえー。


「あんたも自分で相手見つけないと、ブリーリングでってことになるんだからね」

「分ってるよ。でもオレまだ十三だぜ? 今の兄ちゃん達と同じ年になるまであと四年あるんだから急かさないでくれよ」


 コイツが欲しい、と思う相手がいない――父ちゃんによれば、運命の相手というものは一目見た時から惹かれるものだと言う。そんな相手に出会えるんだろうか。

 それから、夕方になって仕事から帰った父ちゃんと三人で夕飯食って、長風呂して部屋に引っ込んだ。

 米国の兄ちゃんも、国政の兄ちゃんも相手を見つけた。でもオレは、会えるんだろうか。見つけられるんだろうか。オレだけの唯一ってヤツを。

 床に座ったままベッドに倒れ込んで天井を見上げる。掲げた右腕がゆらりと霞み、鱗に覆われたそれに変わる。オレは突然変異種らしく、まるでトカゲの様に手足のある姿と、手足のない純粋な蝮の姿の二つを魂源として持っている。

 まるで神話みたいじゃねーか? 脚のある蛇なんてさ。だけど、このせいでオレは気味悪がられている。オレより弱い奴等――つまり同年代のほとんどはオレを忌避し、オレが気楽にいられるのは兄ちゃんとかの強い奴と一緒の時だけ。


「どこかにいるオレの運命、お前に会いたいよ」


 運命の相手ならきっと、オレを怖がらずに抱き締めてくれるんじゃないかって。渡嘉敷の双子にーちゃんみたいなマングースでも、灰頭の兄ちゃんみたいなコウモリでも、どんな種類でも良い。運命なんだから。

 腕を軽く振って人間のそれに戻し、額に拳を押し当てる。運命と会えますように――。

 意識はプツリと途切れた。






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 犬っぽい、か? という疑問はそのうち解消、出来たら良いな。
10/08.2012

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