赤ちゃんとボク19
リンネはまだ赤ん坊だ。そのことをすっかり忘れてたよ。熟した果実に残された道は腐る道だけだけど、リンネはまだ二カ月と少し。完熟には程遠い青い果実だ。興奮のあまり現実を見てなかったね。
「眠いのかい?」
「ああ……眠い」
「そう☆ 抱っこしててあげるからお休み」
紐でリンネをボクに固定してやれば、数分とせずにすやすやという寝息が聞こえてきた。
「ゴメンネ、リンネ」
息子として愛しいと思ってるはずなのに……一時的な感情でリンネを殺しかけた。父親失格かもね。リンネの頭を撫でれば、猫の毛みたいに細くて触り心地の良い髪がふわふわと指に触れる。
――ウジウジ悩んでいても意味がない。リンネは起きたらご飯が必要だろうし、水場近くで腰を落ちつけられる場所を探さないと。
木の幹を蹴って、円に触れた水場へ向かった。
それから数日して、六点集めたリンネが暇潰しに幻術で遊んでいる時。槍を持った男がこそこそとこちらを窺ってきたんだけど、もうすぐ死にそうだったから無視していたら自滅した。イルミが止めを刺したとも言うけどね。
ボクの腰かける切り株まで寄って来て、まるで友人のように気負わず横に座るイルミに目を見開く。ボクらはビジネスパートナーであって、友人になったつもりはなかったんだけど。
まあ、気にするべきことでもないかな?
「あの男、君は何がしたかったんだい? 最後の望みとか何とか言ってたけど、もしかしてそれを聞いて見逃したのかい☆」
「うん。仕事でもないから急ぐ必要ないし、どうせヒソカ相手だったらプレートの奪い合いにはならないだろ」
「ま、ね☆」
幻術で作った馬に乗って広場をグルグル回っているリンネから視線を外さないイルミに少しいらっとする。
「人の息子を視姦しないでくれないか☆」
「視姦なんてしてないよ」
「じゃあ何してるつもりなんだい」
「じっくり観察してるつもり」
「ふーん。で、何か分ったの?」
「リンネのトレーニングメニューは体術と体力増強中心が良いだろうとか、ゾルディック家に欲しいなとか」
「やらないよ」
「残念」
肩を竦めるイルミの表情は「残念だ」とは全く言っていない――獲物を見つけた獣のようにリンネという存在を狙っている。
「少なくとも十四歳になるまではリンネはボクの監督下に置くつもりさ☆ ゾルディックにやるつもりはさらさらないよ☆」
「つまりそれって、十四歳になればゾルディックがもらっても構わないってことだよね」
時が来て、リンネがどんな判断を下すのか。それは今のボクには分りようもない。でもあと十四年間は「ボクの息子であるリンネ」として構っても良いだろ?
「さあ、どうだろうね☆」
未来なんて分りようもないことを、現時点でどうこう言えるわけもないんだし。
+++++++++ リンネがいる時点で原作の会話が起こりようもなかった……。 10/07.2012
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