赤ちゃんとボク18
ボクの目は今までになくギラついているだろう。その自覚は、十分すぎるほどあった。なんて美味しそうなんだい、リンネ。キミのその能力は素晴らしい……初めて出すリンネの本気にゾクゾクする。――ああ、でも。リンネは幻覚という異世界を作り上げる頭脳派タイプだから、肉弾戦を好むボクみたいなのとはちょっと相性が悪いかな?
「ヒソカ、リンネを殺すつもりなの?」
少し殺気の籠った声を横からかけられ、ついトランプで切りつけた――鋲で防がれる。
「リンネをオレの家に貸すって約束を破るつもり? 契約違反だよ」
「こんなに美味しそうだとは思ってもなくてね☆ 食べごろを逃すと、あとは腐っていくだけだろ? それなら美味しく食べられるうちに食べなきゃ☆」
オーラを纏わせたトランプと鋲が拮抗する。ほぼ同時にボクとイルミの足が動き互いの軸足を潰そうと狙うも、互いにそれを邪魔し合うように足が交差した。通常の人体同士の接触ではありえない音が森に響き渡る。
「オレは親父と爺ちゃんと母さんに約束しちゃったからね、面白いの連れて帰るって」
「リンネはボクの息子だ☆ それもまだ一歳にもなってないね――今のところはボクの所有物と言っても良いはずさ☆ 生かすも殺すもボク次第」
「自分の息子を所有物扱いとか気色悪いよ」
トラック同士の衝突に似た音が森の中に何度も何度も鳴り響く。リンネは呆れた様子でため息を一つ吐くと、ボクらの間に炎の柱を噴きあがらせた。熱風が前髪を焼く前に後方へ飛び退り、この炎を作った主だろうリンネを見やった。邪魔するなんて無粋だなぁ……。
「おいパパ。俺は初めて出した本気のせいで疲れている。もし戦うにしても、今すぐは無理だぞ」
「……おや、そうなのかい☆」
赤ん坊の体力しかないオレに二戦は無理だ、とリンネは堂々と言い切った。その割には元気そうだね。でも、火柱をすぐに消したのは疲れてるからなのかな?
「だから、その無駄な戦いを止めろ。パパはともかくとしてイルミは仕事でライセンスが必要なんだぞ。潰してどうする」
リンネが放った言葉にイルミが片眉を跳ねあげる。自分が負けると言われて黙っていられるわけがないからねぇ。くつりと笑えば睨まれた。おお怖い怖い☆
「まるでオレが負けるみたいな言いようだね」
「パパに死なれてはオレが困るからな。パパがやばくなったらイルミの体内でダイナマイトでも爆発させる」
「なるほど」
リンネの幻術にオーラは必要ない――つまりそれは、凝をしても見えず、リンネの幻術から逃れる術はないってこと。「今のところ逃れる方法は分ってない」ってだけだけどね。
「やっぱり欲しいな、リンネ。その幻術って能力は本当に暗殺者向きだし、これから念を覚えたらもっと強くなれるだろうし。何よりオーラが見えないのが良いね。親父と母さんが今から頑張れば妹の一人くらい簡単。リンネの理想の嫁を育てられるよ」
さっきまでの不機嫌はどこへ行ったんだか、嬉々としてリンネをゾルディック家に口説き始めたイルミの頭を小突く。
「人の息子を性犯罪者の道に引きずり込まないでくれないかな☆ それにリンネはボクにそっくりだから女なんて選り取り見取りさ。わざわざ手間をかけて育てる必要はない☆」
リンネの母親もそんな一人――そういえばここ一月と少しご無沙汰だね。リンネがゾルディックで修行してる間にでも行こうかな。
子供が出来たりなんかしたら面倒だから避妊してたんだけど、こっそり針で穴開けられてたりしたら意味ないし。あの女もそうやって孕んだんじゃないかなぁ……もしかすると誰かまた孕んでたりして。リンネみたいな面白い子供なら育てても良いけど、ただの赤ん坊が生まれたりしたら失望のあまり殺しちゃうかもしれない。避妊具はこれから持参かな。
「とっくに犯罪者だから、そこに性犯罪の項が増えたところで問題ないだろ。食べ物とかで男女の生み分けできるそうだし。どう、リンネ。ゾルディック家の婿にならない?」
かなりの暴論を掲げたイルミに口の端が引きつった。
「犯罪の方向性がかなり違うんだけど☆」
「気にするようなこと?」
「気にするようなことだよ」
ボクを振り返って首を傾げるイルミにボクは首を横に振った。ボクとしては息子に性犯罪者にはなって欲しくないんだよね……。
「オレも性犯罪者は遠慮したいぞ。殺人に忌避感はないが」
「そう。それなら仕方ないか」
イルミはつまらなそうに肩を竦め、「プレート集めに行ってくる」と一言残してこの場を去っていった。駆けて行くオーラを見送ってリンネに視線を戻す。どことなく顔色が悪いのは疲れのせいだろうか?
「性犯罪は嫌いなんだね」
「オレはプラトニックラブ推進派だからな」
「なるほど☆」
そこは嗜好が合わないみたいだ。
+++++++++ ヒソカがかなり酷い連載……。 2012/09/21
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