黒羽根のタンツェン



 タイトルは思いつかず適当。ザンザス転生勘違い系(と言いたい)。ちょっとばかりでなく夢主の口が悪い。独白で過去をざっくり説明のため、会話は無し。それでも良ければスクロールプリーズ!













 家庭教師ヒットマンリボーン! の世界に転生トリップしたと分って、はや数年が過ぎた。なるべく原作通りになど進ませるものかと誓ったはずなのに、何故だろう――オレは今、ヴァリアーの頂点の椅子に座っている。

 オレはオレが死んだ理由をはっきりと分っている。登山サークルに入っていたオレは、リーダー主導の雪山登山で遭難したのだ。心配する親と言っても、両親が早世したオレは爺ちゃん婆ちゃんに育てられていて、その二人も高校時代にポックリ逝った。オレの死を悼んでくれるのは友人くらいで、奴等もまあ、身内のそれほど引きずることはないだろうと思う。死んだはずなのに何故、と思って、「輪廻転生」という言葉が思い出された。なるほど、オレは人間道をもう一度繰り返せと言うことなんだな。解脱しかこれから逃れる術は無いと言う六道輪廻、一体どんな罰なんだ――そう腹を括ったが。言葉も分らぬ国に転生したと理解した時には発狂しそうになった。

 赤ん坊の視点の高さを考えてみろ。周囲は全員巨人で、ベビーベッドはオレを閉じ込める牢獄で、彼らが話す言葉は全くわけが分らないと来た。時折母親らしき巨人に連れられて出る外は石畳にレンガ造り、街を歩く人々はほぼ白人で時々黒人と来た。恐ろしかった。耳を左から右に素通りさせているだけのはずの言葉を理解できるようになって行くことが恐怖でしかなく、舌が自然に巻き舌を覚えたと気付いた時には引きつけを起こした。オレは! 巻き舌なんて、出来なかったのに! シングルマザーらしい女は元々オレにさほどの興味がないらしく、オレを放置したきり。テレビから流れる巻き舌の多い声が気色悪くてならなかった。

 三歳になる頃には、慣れるどころか、世界が広がったことで逆に、精神が崩壊するかと思った。オレはこいつらと同じ何かじゃないと心の底から思ったし、外人の顔なんて見分けがつかないし。自然と見慣れたあの女以外は全員同じ顔だ。年を取って太っているか、年が若くて痩せているか。髪の色はカラフルの一言に尽きるし、男女なく刺青を入れた奴らが街をわがもの顔で歩いている。どうして。石造りの建物には圧迫感しかないし、オレを生んだ女が暮らす家のある通りは薄暗く治安が悪い。何故。通りに面したパン屋のオヤジが、ニタニタとした顔でスーツを着た危ない雰囲気の男たちと会話していた。こんな世界、オレは嫌だ……!

 潜り込んだ本屋で、ここがイタリアだと知った。日本がある。日本があるなら、日本に帰れるなら、オレは日本に帰りたい。ここは怖い! 夢が出来たことで、引きつけを起こして倒れることはなくなった。日本語なら生まれる前から完璧だから、だから日本へ帰るんだ。だが、瞳が赤いのが怖いと言われそうだし、白人の血のせいで彫りが深めのこの顔も子供には泣かれる強面になりそうだ。平凡な顔が良かったな。

 前と後ろに丸く突き出たデブ共がよたよたと歩き回る街の中、デブをこれ以上に量産したいのか、アイス屋がそこかしこにある。子供の小遣いでも買える0.80ユーロの物から、高い物になればたった1カップで2.40ユーロするものまで。夕方近くになれば、慰めにしかならないような小銭を渡されてはアイスでも食べて来いと放り出される毎日――あの女は売春婦だ。オレが赤ん坊の時から、すぐ近くで盛ってればそりゃ分るってもんだ。相手の男は毎日の様に違うんだから。

 アイスを食べる気も起きないオレは、小銭を渡される度それを床下の隙間に隠した。一日ではたった1.00ユーロのそれも、一月もすれば二十ユーロに、二年もすれば五百ユーロになると思って。その計画は順調に進み、オレが六歳になる頃には七百ユーロが溜まっていた。ボロボロの十ユーロ札が七十枚、それはオレの心の支えだった。お金を溜めて、日本に行って、こんな阿婆擦れみたいな女じゃない普通で優しくて料理の美味い奥さんをもらって、幸せな家庭を築いて。だがそれは、阿婆擦れの客のせいで崩れた。そいつがオレのへそくりを偶然見つけてしまったのだ。返せと怒鳴るオレに対し、そいつはニヤニヤと十ユーロ札を弾くばかりで。オレみたいな餓鬼が七百ユーロなんて持っているわけがないと嘘つき呼ばわりした。そればかりか、その金を自分の財布にしまおうとしたのだ、そいつは。

 怒りが沸騰した。この国は、この治安の悪い世界は、オレの夢を否定してくる……! そんなの許せるか? オレは許せない。こんなクソなんて死んじまえば良いんだ!!

 そう思った瞬間、そいつに突き出したオレの手から炎が溢れ出た。真っ赤に燃え盛るそれは幻想的で、一瞬見とれた。だがすぐに現実へ意識が連れ戻される。男の悲鳴のせいだった。火に焼かれて踊り狂う男はピエロでしかなく、オレは自然と笑っていた――馬鹿馬鹿しい、どの程度の脳しかない奴だ、と。

 この時にはもう、オレの感覚は焼き切れていた。どうして手から炎が出るのかとか、人が死ぬ様を笑えたこととか、色んなものが吹っ切れてしまっていた。オレが恐れる『暴力』を捩じ伏せられるだけの暴力を手に入れたのだ、喜ばないはずがない。男が落とした財布には、オレの七百ユーロ以外には二十ユーロしか入っていなかった。こんなはした金であの女は買えるのか、安いもんだ。

 しかし、オレが手に炎を灯しているのをどこから覗き見たのだろうか? 男を焼いてから一月ほどした時、女が咳き込む様な口調で訊ねてきた。曰く、手から炎が出せるだろう、と。一応この女は家族だ。隠していても面倒なだけだと思って頷けば、女は感極まったような声で「流石ドンの息子だわ!」と叫んだ。――そして、オレは現実を知らされた。オレはザンザスで、ここはリボーンの世界だということを。

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