乙男…?5



 ジニーと料理をしたり勉強したりと日々を過ごし、気が付けば夏休みが終わっていた。今年はシリウス・ブラックが来るのだったか――面倒なことを。ピーター・ペティグリューがあの場で逃走しなければ、もう少しヴォルデモートの復活も遅らせられたかもしれない。まあ、オレには関係ないことだが。

 ジニーは二カ月ぶりの友達と一緒に座るそうで、コンパートメントでオレと同席する相手は一人もいない。グリフィンドールらしくないグリフィンドール生として悪い意味で有名だしな。避けられてんだろう。

 腕を組んで目を閉じ、どうせ暇だから寝ようと背もたれに体重を預けた。薄目で外の時計を見れば、出発までまだ三十分あった。

 ソファの軋む音がして目が覚めた。列車は既に走り出し、周囲に広大な緑の大地が広がっている。


「あ……」


 頭を振って眠気を飛ばしたオレに、正面から小さな声が漏れた。どうやら同席者ができていたらしい。見れば、人付き合いの苦手そうな少年だった。ギリギリ金髪と言えるかどうかの暗い髪は見るからに重く、全体的に髪が長いせいで陰鬱な雰囲気だ。


「新入生か?」

「う、えっと、あい――はい」


 少年はオレが起きるまでは読んでいたらしい分厚い本を抱き締め、おどおどと頷いた。視線を合わせないようにしながらも、オレがグリフィンドールのネクタイをしているのをチラチラと見ている。


「どこの寮に行きたいんだ?」

「えっ」

「どこの寮に行きたいんだ? 希望はあるのか?」


 あってないような親切心のようなものが顔をもたげ、気が付けば彼に声をかけていた。


「えっと、えっと――」


 オレのネクタイを見ながら、どんどん涙目になって行く少年。もしかしてスリザリン希望か? ああくそ、慣れん親切を焼こうとした結果がこれだ。


「オレはグリフィンドールの中でも嫌われ者でな、だから同席者がいなかっただろう? オレの寮なんて気にするな。少し先輩風を吹かせたくなっただけだったんだ」

「あ、えっと、すみません……ぼ、僕は、スリザリンに入りたくて、両親ともスリザリンで、そこ以外は駄目だって……」

「そうか――もしかして、組み分けで他のところに入れられるかもしれないと思っているのか?」


 少年がコクリと頷いた。


「安心しろ、組み分けは本人の資質もあるが、本人の希望も考慮されているからな」

「そう、ですか」


 ほっと安心した様子の少年に、もう一つ安心できる事を教える。


「それにスリザリンの寮監は寮生を大事にする人だ。きっと君に良くしてくれるはずだ」


 基本的に、『自分の授業で』真面目な生徒なら伸ばそうとする人だからな。


「そうですか……」


 組み分けでスリザリンに決まった彼には何故か懐かれてしまったらしく、図書室に行く度に駆け寄ってくる。そのせいで、グリフィンドールの中でスリザリンのスパイという噂が定着してしまった――気にしたりはしないが、ジニーが「あの兄貴がウザい」と顔をしかめていたのには申し訳なく思った。




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 三年になる時の列車内の出来ごと。図書館の少年として、彼の名前はなかなか出ない気がしてならない。
2012/07/30

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