赤ちゃんとボク17



Caution!
今回の話には残酷な表現があります。そういった類の事が苦手な方は次の17'をご覧ください。ざっくりとした説明をしています。











 一着のパパが先に出発――したものの、俺と一緒に行動する気満々だからか森の入口前で立って待ってた。


「うげっ」


 ニコニコと言うよりはニヤニヤとした笑顔を浮かべているパパを見てキルアやゴン――だっけ?――が呻き声をあげた。パパは将来が楽しみな奴を順繰り見回して、見つめられた奴は軒並み顔を青くしてる。可哀想に。パパが青い果実達を性的に食うことは……ないと思いたい。


「お帰り☆」

「十分も離れてないだろ」

「キミと五十メートル以上離れることなんて、今まで何度もなかっただろ? だからお帰り☆」


 所謂恋人繋ぎで手を握り、森に入る。パパがこの繋ぎ方以外認めないせいだ。

 八十九番のおっさんをさっさと倒してしまえば俺は六点が揃うということで、二人して絶をして入口近くに隠れることになった。だが、何故かそれにギタラクルが合流。何が目的なんだ、コイツ。


「リンネの戦い方知りたくて。試験が終わったらオレん家で修行するでしょ? だったら知っておいた方が良いから」

「なるほどね☆」

「なら全力を見せてやるぞ――と言っても、パパと一緒だと全力を出す必要性がないんだよな。俺も自分の本気がどの程度なのか知らないんだ」


 妖怪大戦にするか、灼熱地獄の業火にするか、それとももう一つにするか。二人に三択で選ばせたら三番目希望だそうだ。あんたら本当に性格悪いな。

 次々と森へ入っていく受験生を見送り、遂に八十九番のおっさんの番となった。周囲にせわしなく視線を飛ばしながら歩くおっさんを見ながら、俺は幻術を発動した。


「うっ!?」


 八十九番は突如として現れた『落とし穴』に足を取られ、手を伸ばすも捕まるものは無くそのまま地中へ流れ落ちた。


「なんだこれは――緑が、森がッ!」


 八十九番の落ちた穴を中心に、鬱蒼と茂る森や雑草は姿を消していく。俺達の座っていた木もその姿を変え、俺達は蛇を模した肘掛の椅子に座っていた。足を組み直して八十九番を見下ろせば、眼球が零れそうなほど目を見開いて俺を見つめている。その表情がおかしくてつい笑えば八十九番は怒りのあまり言葉が出て来ないのか、口を震わせている。


「蟻地獄へようこそ、おっさん」


 足の裏を見せるように足首を捻る。


「きさ、貴様ぁ! 一体何をした、言え!!」

「何をしたって、俺の世界を作っただけだぞ。知ってるか、おっさん? 砂漠では水分補給が大事なんだ」


 ユダヤ教で言う地獄とは「水が飲めないこと」らしい。乾きは空腹よりも辛いのだと聞いた時、良い意味でも悪い意味でも水が豊富な日本じゃ乾くことはないだろうと思ったのを覚えている。水の必要性を、砂漠を渡り、水の乏しい地を切り開いたヨーロピアンは良く知っているんだろう。水は人体の三分の二を占める重要な液体でもあるからな。

 おっさんは憎々しげに俺を睨みつけながら立ちあがろうとし、失敗した。


「何が――これは!?」


 そう、これは蟻地獄だ。ならばアリジゴクがいるのが当然だろ? そのサイズ如何は別にして。


「なぁ、何故こんな怪物が!」

「さてなぁ。だがソイツはとっても喉が渇いてるみたいだぞ。そりゃあそうだ、砂漠に水はそうそうないからなぁ。水分を含むモノとあれば何にでも襲いかかるだろうなぁ、だって喉が渇いてるんだから」


 仕方ないよな、と肩を竦めれば呆然とした様子のおっさん。でも分ってたことだろ? ハンター試験を受けたのはおっさん本人なんだからさ。死亡率の高い試験を受けたんだから。


「た、助けてくれ、何でもする!」


 砂の中から覗くのはほんの一部だが、その大きさはうかがい知れる。子供の腕ほどもある足がカチカチと打ち合う音を鳴らす。体に対してかなり小さいはずの口も人の頭を飲み込めるほどで、恐慌状態に陥ったおっさんは情けない悲鳴を上げながら蟻地獄から逃れようと砂を掻く。掻けば掻くほど落ちて行く事実に愕然とし、狂ったように砂を掘ろうとするその姿に憐れみさえ覚える。


「何でもって?」

「何でも、そう、なんでもするから! 助けてくれ、死にたくない! しに、しにしにしにしにしに、に、にあ、あぁぁぁぁ――!!」


 遂に頭がおかしくなったのか、言葉さえ忘れたように暴れ回るその姿はまるでむずかる乳児のようだ。

 あ、幻術による精神汚染のせいかもしれんな。ちょっと強すぎたのか? まあ俺としてはこのおっさんが死のうが狂おうがどうでも良いんだが。四肢をじたばたとさせるせいでおっさんは地獄の中心へ流されていき、アリジゴクの顎に噛み砕かれて絶命した。


「こんな感じ?」


 幻術を解いて振り返った俺を見るパパの目は、欲望に塗れてギラギラと輝いていた。





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 リンネって残酷な子……。ほのぼのパートは前回までで終わり、ここからはシリアスパートになります。シリアスとほのぼのを交互に。
2012/07/22

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