赤ちゃんとボク16
試験官に色々と注文を付けてお湯を用意させたり、リンネが「寝心地が悪い」と言って布団を作りだしてそこで寝始めたりして余った試験時間を過ごした。
「そろそろ終わりだね☆」
「あと五分ってとこか」
イルミとは四着の受験生が入って来た時に別れ、今は親子二人だけだ。もう三月と言ってもまだ肌寒いせいかリンネは羽毛のベストを着込んでる。幻術って本当に利便性が高いよねぇ。変化系の念でも似たようなことは出来るだろうけど、実際に物質化してしまうとなると具現化系だし。知れば知るほど興味深いよ。
「あ……なんだ」
ボクは気配で気付いたけどリンネはまだそこまでの技術は無い。開いた扉に目をやって、つまらなさそうに口をへの字にした。思った相手じゃなかったからだろう。
「フ、フ、フ……間に合った……ぜ」
血だらけの男が肩で息をしながら広間に入って来たものの、次の瞬間事切れて倒れた。他の受験生が脈を確認し男の死亡を改めて告げる。ほんと、馬鹿だよね。生きていれば次があるだろうに、今回で合格しようと欲をかくからいけないんだ。
『残り一分です』
スピーカーが残り時間を告げる。リンネはもう無理だと思ったんだろう、呆れたようにため息を吐いた。
「いいや、まだだ。見ててごらんリンネ☆」
「……パパ?」
細い肩に手を置いて視線を誘導すれば、その時ちょうど扉の一つが開いた。リンネの目がだんだん見開かれる。
九十九番、四百四番四百五番。おかしいな、気配は五つだったと思うんだけどなぁ。
「ケツいてー」
「短くて簡単な道が滑り台になってるとは思わなかった」
イルミの弟に、釣り竿の子。そしてそのお友達――楽しみな子が残ったから良いかな。
スピーカーが残り三十秒を告げる。釣り竿の四百五番は一つ満足そうにため息を吐き、四百四番と時間内に間に合った事を喜んだ。
「全く、イチかバチかだったな」
四百三番と十六番。十六番は興味ないけど四百三番は合格で嬉しいかな。
横のリンネを見れば、友達じゃないとか仲良くする気は無いと言っておきながらもキルアが気になってたみたいだ。キルアが合格したことを喜ぶように目元が緩んでいた。ボクの視線に気付くと見られていたことが恥ずかしかったのか頬を少し照れで赤くして睨んできた。全然怖くないよ、そんな顔。むしろ可愛いからね。
と、タイムアップを知らせる音が響いた。第三次試験の通過者は二十六名……うち一人はさっき死んじゃったけど。
キルアがリンネを見つけてこっちに駆け寄ろうと一歩踏み出し、隣のボクに気付くや顔を歪めて足を止めた。失礼な子だね。リンネの肩を抱いて広間から出れば、外にはギタラクルのそれにそっくりな髪型をした小男が待ってた。やけに眼鏡が大きいけどお洒落のつもりなのかな? 不気味にする役には立ってるけどさ。
「諸君、タワー脱出おめでとう。残る試験は四次試験と最終試験のみ」
男は少し前かがみになり、顔全体ににやーっという笑みを浮かべた。
「四次試験はゼビル島にて行われる。では早速だが」
男が指を鳴らすと、男と比べて背の高い禿頭の男が箱のついたキャリーを押してやってきた。
「なんだありゃ」
「さあ。そのうち分るんじゃないかな☆」
男が再び口を開き説明したところによると、これからクジを引いて狩る者と狩られる者を決めるのだとか。……なんだか面白そうな展開になって来たじゃないか。
「それでは、タワーを脱出した順にクジを引いてもらおう」
先ずボクが引き、次にリンネ。その次にギタラクルが引いた。
「おや☆」
我が子の胸に付いた番号を見、そしてボクの引いた番号をもう一度確認する。一緒だ。ペアってわけじゃないよね、きっと。ならターゲットかな? もしそうだとしても、リンネから取れるかと言うと自信は無いし……幻術で逃げられたらどうしようもないからね。
「八十九……」
リンネはリンネで自分の持つ札に書かれた番号をキョロキョロと探す。
「八十九番ってどれだ」
見回せば、顎の割れた黒髪の男がリンネのプレートに書かれた男だった。リンネならすぐにノしてしまうだろうから不安は無いね。
「あれか。あれを殺せば良いのか?」
「たぶんそうなんじゃないかな」
パパの番号は何番だ、なんだ俺じゃないかと話している間に全員が引き終わったらしい。男――試験官の説明は予想通りのもので、自分のプレートとターゲットのプレートが各三点、その他のプレートが一点となる中、六点を集めるというものだった。なら自分のプレートとその他のプレート三枚で十分かな。
「なあパパ、いるか?」
「いや別に☆ 他のプレートを三枚集めるから構わないよ☆」
プレートを差しだして来たリンネの頭を撫で、二時間後に始まるというゲームにざわつく心を宥めた。二時間待てば好きに出来るんだから、それまで我慢しなくちゃね。
+++++++++ 日付が変わってしまった……クッ! 2012/06/18
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