赤ちゃんとボク15
残りの六十時間とちょっと。扉が開き一人、三着の受験生が現れた。イルミだ。
「速かったんだね」
「ほぼ階段を下りるだけだったからね☆ リンネに負担をかけないように抑えたんだよ、これでも☆」
イルミは興味なさそうにふうんと呟くとボクの膝からリンネを取り上げ、一メートルほど離れた場所に座った。
「勝手に人の息子を持って行かないでくれないかい?」
「やだ。人間湯たんぽにするから」
上着の中にリンネを突っ込もうとするイルミからリンネを取り戻す。猫の子じゃないんだから。それになんだい、『やだ』って。子供じゃないんだからね。
「ヒソカ」
「なんだい?」
「子供って、可愛いもの?」
「さあ、人によるんじゃないかな☆」
それこそ捨てる親もいれば愛情をかける親もいる。ボクもまさかリンネにここまで愛情を持つとは我ながら思わなかったしね。人それぞれなんだと思うよ。
衝撃で起きたらしいリンネが目を擦りながら顔を上げ、正面にいるイルミに「うげっ」と引きつった声を発した。
「なんでいるんだ、ギタラクル」
「合格したから。面白かったよ、オレでも少しやばいかなってくらいの罠ばっかで、スリル満載だった」
「そんなことはどうでも良い。どうして俺の正面にいるのか聞いてるんだぞ」
「ヒソカと話をしてたからね。リンネを取り合ってたんだ」
「ふーん、その心は?」
「子供体温ってあったかいよね?」
抱っこされて、と手を伸ばすイルミのその手を避け、ボクの膝からころりと落ちるとリンネは十四歳くらいの姿になった。
「俺はパパ以外の男にだっこされて喜ぶ様な趣味はないぞ」
「おや☆」
ボクは良いのかい? それは嬉しいねぇ。
「ほら、パパの胸に飛び込んでおいで、リンネ☆」
「抱きあう趣味は無い」
「あれ☆」
イルミが見下したような目を向けてきた。だっこも許してもらえないイルミとは違うんだよ、ボクは。
「リンネもキルと同じ反抗期? うちのキルは親父にじゃなくて母さんに対して反抗してるけど、リンネはヒソカに対して反抗してるの?」
「うちの子に限って反抗期なんて来るわけないだろう☆」
「んー、十年後くらいにあるんじゃないか? パパと一緒にパンツ洗いたくないとか加齢臭が移るから近寄るなとか」
「――リンネはそんな反抗期なんて迎えないよね☆」
「さあ」
リンネの顔を見るも、ケロリとした表情だった。え?
イルミが首を傾げながら挙手した。
「反抗期ってそんなものなの? キルみたいに、修行でもないのに親兄弟にナイフ向けるとか、『お袋やジジイなんてとっ捕まえてふんじばって牢屋へ押し込んでやるんだ。懸賞金うっひょー!』とか言いながら家を出て行くとか、一応は兄にあたるミルに対してブタ君って呼ぶとか」
「それって反抗期なのかい?」
「反抗と言うより反逆や家出だろ、それ」
キルアの将来が不安になることを聞いた気がする。リンネにはそんな反抗期なんて来るはずがないって信じてるけど、人様の子供の反抗期について聞くとなんだかね……。明日のわが身かもしれないという不安がこう、ざわざわとするんだよ。
と、リンネが腹を押さえた。
「キルアの反抗期はどうでも良いけど、パパ、腹が減った」
そういえば朝にしか飲んでないからね。どうしよう、お湯を沸かせる環境じゃないんだけど……。
++++++++ リンネのご飯=本体(零歳)に合わせて流動食。 2012/06/17
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