赤ちゃんとボク14



「この部屋で五十時間過してもらえば先に進めるドアが開くので、待っていたまえ」


 スピーカー越しの少し割れた声が室内に響く。キルアのお陰であの関門を通ることができた。彼の技には少し興味がある――暗殺一家のエリートと言うが、ほとんど手を汚すことなく心臓を抜き取るなど普通は不可能。つまり特殊な技術が必要なはずだ。

 ゴンはさっきのキルアの技に興味があるふうでもなく本を読み始め、レオリオは居心地悪そうに尻の位置を何度も変えている。トンパは一番扉に近い場所に座って挙動不審にキルアを見ていた。


「……キルア。さっきの技はどうやったんだ?」


 疑問は解消しないと気が済まない性質の私がそう口を開けば、やはり興味があったんだろうレオリオとトンパも顔を上げる。ゴンは首を傾げながら私とレオリオを見比べた。


「技ってほどのもんじゃないよ。ただ抜き取っただけだよ――ただし、ちょっと自分の肉体を操作して盗みやすくしたけど」


 前に突き出した右手は爪が鋭く伸び、まるで一本のナイフのように変化した。


「殺人鬼なんて言っても結局はアマチュアじゃん。オレ、一応元プロだし」


 何でもないことのように言うキルアが恐ろしい。


「オヤジはもっとうまく盗む。ぬきとる時、相手の傷口から血が出ないからね」

「……ふん、頼もしい限りだな」


 レオリオが負け惜しみのように答えたが、頼もしいのは味方であるうちだ。果たしていつまで彼と味方でい続けられるのか。試験の内容によっては敵対もありうるのだから。


「それと、技って言うのはリンネの奇術みたいなのを言うんだ。全然タネが見えないんだぜ、アレ」


 キルアは何か面白いことを思い出したようにニっと笑った。リンネ……誰のことだ?


「リンネ? 誰だそりゃ」


 誰のことを指すのかと顔を見合わせる私とゴンとレオリオに対し、今まで黙っていたトンパが口を開いた。


「リンネっつーのは四百六番、ヒソカの連れのことさ。アイツはヒソカと同じぐれー狂ってやがる」

「ああ、あのたった二人だけ先に二次試験を合格した人のこと?」

「そーだ」


 レオリオはあのいけすかない餓鬼かと苦々しそうに顔を歪める。四百六番か。


「そういえば彼だったな、試験直前に一人受験生を殺したのは」


 私がそう言えば、レオリオはさっと顔色を悪くする。どうやら思い出したらしい。


「アイツがアイツだったのか……」

「一瞬でおじさんがお爺さんになったんだよね。で、燃えあがって死んじゃったんだ」

「そ。ああいうのを技って言うんだぜ。オレの動体視力は一般人の十倍はあるって自信があるけど、あれのタネは全然見えなかったんだよな」


 感心する二人に対し、私やレオリオ、トンパは渋面だ。彼の人間を人間と思わない行動は父親だというヒソカそっくりで、愉快犯の気があるのは見れば分る。あまり近付きたくないタイプの人間だ。


「走ってる最中にさ、リンネに声かけたんだ」

「えー、その時オレいなかった!」


 キルアが身内自慢のように嬉々として話し、ゴンがそれに大げさな程はしゃいで反応する。まだ子供と言うことだろうか? 怖いもの知らず、という言葉が脳裏に浮かぶ。


「教えてって言ったんだけど教えてくれなくてさ、『お前には無理だ』の一言でばっさりだぜ!?」

「えー、つまんない!」

「だよな!」


 でもアイツすっげー恰好良くて憧れる、とキルアは瞳を輝かせながら語った。

 だが、そういえば――この試験が始まる時、四百六番の姿を見かけなかった気がする。あの特徴的な親子なら必ず目につくはず。ヒソカは見た覚えがあるが四百六番はない。どうしてだ!?

 考えれば考える程謎の深まる親子。まるで蟻地獄に足を絡め捕られたような、そんな恐怖が私の背筋を這い上った。





+++++++++
 クラビカは熟考するが故にリンネの底知れなさに恐怖し、ゴンは純粋に「凄い」と、キルアは憧れ――ってところかな。
2012/06/17

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