乙男…?4



 スキャバーズがつぶらな瞳で見上げてくるのを見て、前世の友人が飼っていたハムスターを思い出した。そのハムスターはいっそ凶悪な程可愛らしく――太っていた。普通ハムスターというものはもっとスマートで胴長だったはずなのだが、栄養価の高い物を与え過ぎたためかぷくぷくと肥え太ってまるでボールの様だった。

 『死んだあと小屋が二次利用できないから』という理由でバケツの中で暮らしていたそのハムスターの名前はもちろんバケツ。居間に置かれたそのバケツの横を誰かが通る度に「ごはん?」と言わんばかりに見上げてくるというバケツ(名前)に友人一家は全員絆され、やれキュウリだ、パンだ、林檎だ――と与えてしまうと言っていた。

 今ではその気持ちも分らないではない。が、この鼠の中身が良い年こいた親父だということを考えるとときめきも萎むと言うものだ。

 台所の一角を借りて料理に精を出すオレとジニーの目の前によじ登るや、つぶらな瞳で何かを訴えかけてきたこの男。ジニーは食材を狙う害獣かと一瞬眼力を鋭くしたものの、それがスキャバーズだと分るととたんに肩の力を抜いた。


「なんだ、スキャバーズじゃない。ロンと離れてどうしたのかしら」

「さあな。あいつの傍にいるのにも飽きたんじゃないか?」


 両手を前に差し出して物乞いのポーズをするスキャバーズが少し哀れに思え、三角コーナーに入っていたキャベツの切れ端を与えれば物凄い勢いで食べ始めた。


「お腹減ってたのね」

「あの男がコイツを連れて歩いている姿を見たことがなかったが、もしや食事を与えていないなんてことはないだろうな」

「まさか――もしそうだったりしたら、ママに言ってスキャバーズを家に戻してもらうわ」


 だが、コイツが学内におらねば三年時のハリーの大冒険は消える。その時はその時か?

 そんな会話をしながら作った料理は繊細で奥の深い味付けだとジニーも絶賛してくれている。日本料理って基本的に薄味で隠し味ってのが好きだからな。


「時間が押している。早く行こう」

「あら、もうこんな時間!?」


 時計を見てジニーはあっと小さく叫んだ。今日はこの料理をふるまう相手がいるから、何時にまして時間厳守なのだ。

 オレは盆に皿を並べて持ち、ジニーにはお茶のピッチャーを持ってもらう。急いで空き教室に入ればそこには黒い影。スネイプ教授だ。


「お待たせしました教授」

「今並べますね!」

「いや、さほど待ってはいない。今日は一体――」


 振り返った教授は目を見開いた。屋敷しもべ妖精に頼んだからテーブルのセッティングは既にしてあるが、まさかオレ達が料理を持って飛び込んでくるとは思わなかったんだろう。


「もしや、手作りか?」

「はい!」


 ジニーが「シェーマスの料理はそれはもう絶品なんです、本当ですよ!」と煽ててくるから少し恥ずかしい。

 今日のメニューは、イギリスにいるからこそのマグロ祭りだ。一応フレンチのコースに合わせた料理を作りはしたが、オレも一緒に食べるから厨房に籠りきりなんて出来ないし、全部一度に出してしまう。

 オードブルはマグロのカルパッチョ。赤玉ねぎをこれでもかと使った。玉ねぎスライスはイタリアンドレッシングや醤油ドレッシングと合わせると最高だと思う。もちろんオイスターソースでも可だ。

 スープはマグロのつくね汁。豆腐を混ぜたためつくねの触感はふかふかしている。臭み取りのためにショウガをすり下ろしたのをつくねの中に、短冊切りのを汁に浮かべている。

 この調子なら魚料理と肉料理を出すんだが、マグロ祭りということで魚料理に全部まとめた。マグロのから揚げ、マグロステーキ、マグロのタタキわさび添え。デザートは後で取りに行くから未だ冷蔵庫の中だ。


「では、頂こうか」


 この場では主賓である教授がナイフとフォークを取り、オレは箸を構える。ついでにジニーも箸だ。教授が奇妙そうな顔をしたがまあ後で。


「……美味いな」

「でしょう」


 ジニーがコクコクと頷いている。自分の料理の腕に自信がないかと言われれば有るんだが、目の前で褒められると照れる。

 そんなこんなで日ごろの感謝を込めた料理をふるまったわけだが、何故か校長やポッター達からは密会を行ったのだと勘違いされていた。ポッター達はまあ餓鬼だから仕方ないとしても、校長なら屋敷しもべ妖精に訊けばすぐ分るだろう。ここ最近で校長のボケはどうしようもないスピードで進行しているようだ。早くマンゴでも行けば良いのに。





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 相変わらず時系列は無視。好き勝手に書いている。ところで、最近自分の書く話に料理のシーンが多い気がするんだけど気のせい?
2012/06/17

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