赤ちゃんとボク11
空腹で目覚めたら、パンキッシュでヤクをキメてトんでるような顔をした男が俺を抱いていてビビった。
「うおっ!?」
勢い良く顔を逸らした勢いのまま背中からコロリと転がり、起き上がりこぼしの様に一回転して止まった。誰だコイツ? パパが一日で劇的ビフォアフターしたとは思えねーし、パパの知り合いかもしれないな。だがこれは……あまりに見た目が酷すぎる。
キョドってる俺に対し、背中の側から聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。パパだ。
「毛を逆立てた猫みたいだね☆」
「おいパパ! これはどういうことだ、ついでにコイツは誰だ?」
瞬時にパパの膝に飛び込む。
「リンネ、キミは試験が終わったら彼の家に行くんだよ」
だがパパは、そんな俺に恐ろしいことを言った。コイツの家に、俺を?
「ふむ、パパは俺を捨てるのか?」
まだ俺はこの世界の一般常識も文字も知らないのだ。保護者がいるなら保護を受けた方が楽に決まってる。そう思って捨てられないよう良い子でいる努力を続けたつもりだが、やっぱり俺が重荷になったのかもしれねーな。
「いいや☆ ボクがキミを捨てるわけがないだろ? ボクでもキミに体術を教えられないわけじゃないけど、彼――イルミの家なら、一番キミに合った修行を付けてくれるんだよ☆」
なんだ、捨てるわけじゃないのか。
「そうならそうと言えば良いだろう。勘違いしかねない言い回しだったから、危うくパパに捨てられる覚悟を決めるところだったぞ」
「それはすまない☆」
くしゃりと俺の頭を撫でながらそう言ったパパは、どこかつまらなそうな悲しそうな風に口をへの時にしていた。
「ヒソカ、息子から好かれてないんだ?」
「そんなことないよ☆ ボクらは一心同体ってくらい仲良しさ☆」
「そうなの?」
「そうなの☆」
アッチの世界へイっちゃってる見た目の男の口からこぼれ出た爽やかな声に目を剥く。似合わないにもほどがあるだろ! なんだこの違和感は……パパも変人だが、その知り合いも変人ということか。類は友を呼ぶ一例だな。
「ねえ、君。リンネだっけ」
「なんだ? というかあんたは何てんだ?」
「あ、オレはイルミ。でも今はギタラクルって呼んでね」
ヤツはパパから視線を外し、オレに人差し指を差し出してきた。反射的にそれを握れば嬉しそうに表情を明るくする。――残念なくらい笑顔が似合わねえな、このギタラクルって奴。
「君は一ヶ月間オレん家で修行する予定なんだけど、君の本体ってどっちなの。零歳? 十四歳?」
「零歳だぞ。俺は特殊だからな、生まれた時から記憶があるし歩けもするぞ」
「へえ」
面白いね、と俺の頭を撫で、ギタラクルは立ち上がった。
「また後で合流しよう。キルアがピリピリしてるみたいだ」
キルアはパパと離れて走っていた時に慣れ慣れしく話しかけてきた。肌をチクチクと突き刺すこれはギタラクルによればキルアの殺気らしい。俺にすればさして仲良くしたいとは思わない相手でもギタラクルにとっては違うんだろう。去っていくギタラクルの背中を見送ってパパに顔を戻せば、ギュウギュウと抱き締められた。
「パパ、苦しいぞ」
「ねえ、リンネ」
「なんだ?」
「ボクはリンネを捨てるように見えたかい?」
「うむ」
俺もパパも飽きっぽいし情に薄い性格だ。だが本当に関心を持ったことに関してはトリモチの様にねちっこくなる――そんな点も似ていると思う。
パパからすれば俺はただの一夜の過ちの結果でしかないはずだ。興味関心を引くような点といえば幻術だが、それもまだ使い慣れないから微妙だ。
「……そっか☆」
人気がなく静かなここに、パパの声はやけに響いた。
+++++++++ 父親という自覚は、育っていくものだそうで。ヒソカの人生のスパイスと言っても相思相愛になるとは言えず。 2012/06/13
- 63/511 -
*前|目次|次#
レビュー・0件
|