赤ちゃんとボク10



 飛行船へ乗り込み説明を受けた後、適当な影に胡坐をかいた。膝の上にリンネを寝かせる。柔らかい塊はまだ五キロにもなってない小さくて軽い生き物だ――これが大人のように立って歩くのだから、本当にリンネは奇妙で面白い。


「む、むぬぬ……」


 変な寝息を立て、もぞもぞと居心地悪そうに小さい体を捩るリンネ。猫の子みたいで可愛いじゃないか。これは是非写真に残しておかないと! ああだけどカメラなんて持ち歩いてないからここじゃ無理だね。もったいない。

 左手でトランプタワーを作りながら右手でリンネの頬を突く。ウォーターベッドよりも柔らかい感触が指に当たり、つい気が付けば突くのを止められなくなっていた。これはクセになるなぁ。


「うー……」


 突かれるのが嫌なのか、リンネは眉間に深く皺を寄せると再び体を捩り、短い腕で頭を抱えてうつ伏せになった。……可愛い。腕の長さが足りなくて頭の天辺まで届かないところも全体的に丸っこいところも可愛い。なんてことだ、リンネは怪物として興味深いだけじゃなくて愛玩目的でも使えるとは。


「何してるの?」


 新発見に打ち震えているボクに近寄る気配があった。ギタラクル――イルミだ。


「いや、ボクの息子の万能具合に感動していたのさ☆」

「ふーん」


 変装を解かないままのちょっと攻撃的な見た目のイルミは、スルリと流れるような動作でボクの横に座った。ボクたちが協力したのって、必要時以外は敵対しないってだけだろ? どうしてそう、まるでオトモダチみたいに横に座るんだい?


「何か用でもあるのかい?」

「ううん。ただヒソカの息子ってのに興味があっただけ。寝てるの?」

「見ての通りさ☆」


 興味深そうにリンネを見下ろすイルミに攻撃の意思がないことは確かだ。ふわふわの髪の毛に恐る恐る手を伸ばす彼を好きなようにさせていれば、何度か人差し指で撫でた後ポツリと呟いた。


「キルアも昔こんなだった、気がする」

「もう十二歳だっけ? なら記憶があやふやでも仕方ないよ☆」


 でもイルミにはまだアルカとカルトって弟がいるんじゃなかったかな。


「赤ん坊はやっぱり小さい」

「まあ、そうだねぇ」

「オレもそろそろ結婚すべき?」

「ボクに聞かれても☆ 親に言いなよ☆」


 跡継ぎはキルアなんだろう? ならイルミに結婚を強制するとは思えないんだよね。一度だけイルミの父親には会ったことがあるけど、子供の自主性を大事にしてるみたいだったし。


「ヒソカはいつ結婚したの」

「そんなのしてないよ☆ この子は火遊び相手が勝手に生んだだけだからネ」

「へえ」


 イルミはリンネが寝ているのも構わずリンネの脇を掴み、持ち上げる。そんな持ち方したら可哀想だろ、もっと居心地良いように持ってやりなよ。


「赤ん坊の持ち方くらい見たことあるだろ? それじゃ首の据わりが悪いよ☆」

「ん。小さくて軽い――もらっちゃダメ?」

「ダメ☆」


 何を言い出すかと思えば。


「母さんが喜ぶ」

「それはボクの息子だよ☆」

「カルトも弟ができたら喜ぶし、親父や爺ちゃんも喜ぶと思う」

「持ち帰りたいの?」

「うん」


 まるきりただの赤ん坊のように抱かれているリンネを見ながら考えを巡らせる。幻術でほぼ万能なリンネも体術面では不安が残る。念に関してはボクでも問題ないけど、体術に関してはボクは独学だし。ボクのやり方がリンネに合うかも分からない。『もし』や『万が一』がないとは言えないし、そんな事態になってから嘆いても後の祭りでしかない。イルミを育てたゾルディック家ならリンネを上手く調整してくれるに違いない。

 ――でもそうすると、ボクが楽しくないんだよねぇ。リンネと今更離れるなんて、無理。この柔らかい髪とかほっぺとか、ボクの興味を引いてやまない幻術とか、まだ生まれて二か月なのに立って歩いてるところとか。それがたった一週間だとしても嫌だ。


「ンー……」

「ダメなの?」


 あまり見られたものじゃないギタラクルの顔でお願いされても気色悪いだけなんだけど。


「仕方ない……一か月だ☆」


 指を一本立ててイルミに示した。


「一か月間だけならリンネを貸そう☆ でも最低でも三日に一回はボクと電話か面会をさせること。ゾルディック家で修業を付けようというなら、念以外の体術とかそういうのにすること☆ それが守れるなら試験の後にリンネを貸しても良いよ☆」

「分かった」


 イルミはリンネの頬を突きながら頷いた。一月の間にリンネのほっぺたが摩耗して帰ってくるんじゃないかって不安だよ。





+++++++++
 ゾルディック家フラグ。だがそれ以前に、果たしてリンネはハンター試験を合格できるのか……。
2012/06/13

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