赤ちゃんとボク9



 ボク達だけが合格という判定は厳しすぎる、という会長の言葉で再試験がなされることになった。ボクとしては再試験が行われようが行われなかろうがどうでも良いんだけどね。でもイルミが合格できなかったら困るな……再試験した方が良いだろう。


「なあパパ」

「なんだい、リンネ?」


 試験官が崖から飛び降りてクモワシの卵を取りに行ったのを見たリンネが目をキラキラさせる。


「パパもああいうことできるんだろ」

「まあね。見たいのかい☆」

「いや、オレがしてみたい」


 オレもできるかなと言うリンネを頭のてっぺんからつま先まで見る。うーん……リンネはこれでもまだ生まれて二ヶ月の赤ん坊。無理をさせたくはないんだよね。幻術がほぼ万能とは言ってもねぇ。


「ンー、今回は見送った方が良いよ☆ もっと体を鍛えてからにしようか☆」

「うむむ、そうか……」


 基本的にボクに従うリンネは残念そうに崖を見やり、振り切るように視線を外した。リンネの精神年齢から考えれば親に逆らったり反発するのは普通のことなのにねぇ。まあこっちとしては楽だから良いんだけど。


「あ、キルアが帰ってきた」


 柔らかい髪を撫でながら再試験の結果が出るのを待っていれば、崖からひょっこりと顔を出した銀髪の少年の姿にリンネが声を上げた。


「友達かい?」

「いいや、一次試験で一緒に走っただけだぞ。あの奇術のタネが気になるとか言って向こうが話しかけてきた」

「へえ☆」


 子供なら二言三言交わせばもう友達だと言いそうなのにねぇ。嫌いなタイプだったのかな。


「キルアは暗殺一家の息子だそうだ。だからスリリングな生活を送ってるんだなと言ったら面白い奴と言われたんだが、オレは面白いのか?」

「うーん☆」


 ボクがリンネの魅力だと思った点を他の人も魅力だと思うかどうかは別の話。キルアがリンネを面白いと思った点をボクもそう思うかは別なんだよね。


「ボクはリンネがリンネであることが興味深いし面白いと思ってるけど、彼がリンネを面白いと思ったのと同じ理由でリンネを面白いと思ったわけじゃない☆ だからボクには何とも言えないな☆」

「なるほど」


 キルアがゴンや三百三番や四番と合流して会話に花を咲かせているのを見ても全く気にした様子なく、リンネは口元に手を当ててあくびをかみ殺した。


「眠いのかい?」

「うん……暇になったら眠気が来た」


 体が睡眠を求めてるのかもしれないね。

 目元を擦るリンネを抱き上げれば繰り返しあくびをし始める。集中が切れて輪郭が揺らめき、周囲をざっと見回せば会長がこっちを見つめていた。嫌だけど相手に背中を向けてリンネに声をかける。


「リンネ、幻術が解けかけてるよ☆」

「うー、眠い」

「眠いなら解いてしまいなよ。今なら誰も見てないからね☆」

「うー……」


 リンネを覆っていた霧が晴れるように消えていき赤ん坊のリンネが姿を現す。

 ほっぺがプニプニなのも髪が柔らかいのもボクのお気に入りだ。手早く背負っておんぶ紐で固定すればすぐにすうすうという寝息が聞こえ始める。早く再試験終わらないかな、リンネを横にしてやりたいんだけど。




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 パパヒソと化している罠。
2012/06/12

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