折檻よ!
セーラー戦士的能力をもらってぬ〜べ〜ワールドに来てしまった的な。
悪しき物は浄化してやんぜ、という、セーラー戦士的な能力を押しつけられ……じゃなかった、渡された。誰にって神様にだけど。
転生したところはどうしてか悪霊や妖怪が身近だった。なんか頻繁に妖怪事件とか悪霊事件とか起きるし。なにこれ主人公補正か巻き込まれフラグ乱立?――そんなことを思っていた私が小学五年生になった時、ここがどこの世界なのか知った。まさかのぬ〜べ〜。もう記憶もあやふやで時系列なんて覚えてない。
どうして分ったかと言えば担任がぬ〜べ〜だったからで……漫画では名前も出ないモブな生徒よ、ハッハッハ! 広も転入して来たし、なんか色々と事件が起きたし、とりま他のモブたちと同じ反応をしていればどうにかなると信じて行動し続けていた……そんな私を表世界の動乱に巻き込んでくれたのは、マンガには出てこなかった悪霊事件だった。
その日は駅前にある大きな文房具屋が二日間限定で二割引セールをするということで、赤ペンとかノートの買い足しに出た。安く買える時に買いだめしないともったいないじゃない?
突然街を暴走しだした悪霊のとり憑いた車。バイクだったとしても迷惑なのに、それが四トントラックだったのがもう面倒としか言い様がない。ぬ〜べ〜のアパートがどこにあるのかは知らないし、ここは学校からも遠い。早くどうにかしなくちゃ死人が出る――ああもう、これだから物騒な世界は!
ビルの影に飛び込みポケットからペンっぽいものを取り出す。頭上に掲げながら唱えるは変身の呪文。
「マーズクリスタルパワー、メーイク、アーップ!」
そう。私は主人公のうさぎちゃんの力じゃない、火野レイちゃんの能力をもらったのよね。誰のが良いか選ばせてあげると言われて、一番性格が合いそうなレイちゃんにした私は間違ってなかったと思う。
服が燃えるように消えていき、代わりにセーラー戦士としての服が足下から現れていく。真っ赤なハイヒールにミニスカート、タイツのようにぴったりとした上にハート型の赤い石が真ん中にはめ込まれた大きなリボン。髪は長く伸びて額にはティアラ。セーラーVのしていたような仮面を付ければ終わり。マンガみたいに顔出ししててバレないなんてありえないのよ――私はなるべく平和に生きていたいの。
「静まりなさい!」
高く飛んで電灯の上に降り立ち、混乱する人々の視線を集める。実はこうして登場するのは初めてじゃないから、私の姿を見て安堵する人の姿もチラホラ。
「右往左往しても逃げるのが遅れるだけ! 慌てず、心を落ち着かせて! あの悪霊は私がなんとかする!」
「せ、セーラーマーズだ!」
「セーラーマーズが助けに来てくれた!!」
高校生くらいの少年グループが興奮した様子で私を見つめる。……学年で一番背が高いけど、これでも私はまだ小学五年生よ。
悪霊のとり憑いた車が私を邪魔と思ってか、私の立つ電灯へエンジンを唸らせる。
「人を困らせる悪霊は、火星に代わって折檻よ! セーラーマーズ、参上!!」
ぺたんこ御札を取り出し投げつける。タイヤが突然止まったせいでトラックは勢い余って前転、グシャリと運転主席が潰れる。誰も乗ってなかったから良いのよ。
「悪霊退散ッ!」
そう唱えれば浄化の青い炎が上がり悪霊が消える。はた迷惑な悪霊のせいで街はぐちゃぐちゃ、だけど死人はでてないみたい。
「有り難うセーラーマーズ!」
「セーラーマーズ、サインして!」
ふう、と一つため息を吐いた私に、周囲からそんな声があがる。でも私としてはボロを出す可能性を作りたくないし、飛び上がってその場を離脱した。近くのビルの屋上からまた屋上へと飛ぶ私を見て、とある狐が興味を持っただなんて思いもせず。
+++++++++ 狐さんには同族か同類に見えたとかとかとか。 2012/06/07
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