Pink polaris〜ナズナとキズナ〜



 アジトへ来る途中でふと目に付いたペンペン草を、懐かしく思いつつ摘んだ。種の部分がちぎれない程度に折り引けば、赤ん坊のおもちゃのデンデン太鼓の様に種がだらりとうなだれる。やもすればデンデン太鼓はこれから発想を得たのかもしれないね。

 指でつまみ、指を擦り合わせるようにすればペンペンと鳴る。他愛ない玩具だ。そういえばトモコとは草相撲もしたし草笛も作った。案外トモコはこういう遊びが好きだったのかもしれない。折り紙やままごとよりも野草を使った遊びや野を駆け回る方が多かったしな……。

 だがトモコと一番思い出深いのはペンペン草だ。トモコはペンペン草の苗を日本から空輸して来るほどペンペン草が好きだった。それぞれの草花が持つ意味や用途を空で言えるほど植物好きだったトモコが一番好きだというのだから、普通ならその意味を教わっているはずだ。はずだが、そういえば聞かされた覚えがない。思い出せないだけだろうか?

 なんとなく気になって、そこからはゆっくりと歩いてアジトへ向かう。手の中のペンペン草がチャラチャラと鳴るのが楽しい。だんだんへたってきたから、またもう一本新たに摘んで種の部分を折り引く。八つほど繊維がギリギリ繋がっているところまで引き下げて、回す。鈴の音にどこか似た音が耳を楽しませ、かつての記憶を蘇らせていく。


「マチ様、これはペンペン草というのです。私が一番好きな草ですよ」


 前世でも見覚えのあるそれにふうんと頷き、どうして一番好きなのか訊ねた。言ってしまえばペンペン草など雑草の一つであって、薔薇の様に目を引くわけでもないし百合の様に清楚で可憐というわけでもない。『一番』好きになる理由が全く分からない。


「うーん、まだ秘密です。マチ様が大きくなられたら、ご自分で調べてみてください」


 答えをはぐらかしたトモコが珍しくて。いつもなら私の質問には答えられる限り答えてくれるトモコがそんなことを言うなんて、本当に珍しくて。目を丸くした私にトモコは微笑んで……確か、こう言ったのだ。

 「これは私とマチ様なのですよ」と。

 一体あれはどういう意味だったのか、悩みつつアジトに着けばちょうど良くシャルがいた。皆との挨拶もそこそこにシャルにナズナの意味を調べてくれるように頼む。


「ナズナ? ペンペン草のことだよね……今げんにマチが持ってる。それがどうしたのさ?」

「いや、昔トモコが『大きくなったら意味を調べてご覧』と言ったのを思い出してな。気になったのさ」


 そんな簡単なことならすぐだよ、とシャルが検索をかけている間にクロロとノブナガが近寄ってきた。


「そりゃ懐かしいな、ペンペン草か。昔はオレもよく遊んだもんだぜ」

「そういえばここらは群生地だったな」


 ノブナガはジャポンにいたことがあるからだろう、懐かしそうに私の手からペンペン草を取った。回せばチャラチャラと音が鳴る。


「出たよ! えっとね……親と子の繋がりって意味らしいよ。種が茎からこう、ぴょこんって伸びてるでしょ? それが親、元のペンペン草と、子、つまり種ね? の繋がりを思わせることからだってさ」


 『これは私とマチ様なのですよ』。トモコの言葉が頭の中に響く。『マチ様、これはペンペン草というのです。私が一番好きな草ですよ』――日本から空輸してまで。


「ついでに花言葉は『すべてを捧げます』だってさ」


 ねえトモコ、私は貴女に何かできただろうか?





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 ナズナの意味を知って、突発的に書いた話。
 またもや気づけば日付が!
2012/06/04

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