赤ちゃんとボク4



 最後の一人が来ましたので、と言って現れた男が差し出したプレートを、リンネは愛想良く笑いながら受け取った。


「四百六番か、つまりこの場には四百四っつの玩具があるわけだな」

「んー、それからもう一つ減らしてくれるかい? 知り合いが受験してるんだ☆」

「――パパの知り合いならそいつは強いんだろうな。パパのことだから行きずりの女なんて知り合いのカテゴリに入れないだろ」

「流石リンネ、ボクのこと良く分かってるね」


 リンネの母親も『都合が良いから連絡先を教えただけの女』でしかなかった。本質的なところが似ているからなのか、それともただ理解できるだけなのか、リンネはボクの考えをピシャリと言い当てることがよくある。リンネに飽きない理由の一つだね。

 と、そんな時、リンネにわざとらしくぶつかってきた男がいた。幼さを弱さと履き違えているのか、リンネを見下ろして馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「ふん、こんな餓鬼が受験だと? パパの金でも使って会場を知ったのか、お坊っちゃんよ」


 リンネはきょとりとした表情で男を見上げる――リンネは何か企んでるんだ、とカンが訴える。


「あんたこそ、そんな老体でよく受験しようと思ったな」


 リンネがそう言った瞬間男は四十歳は老け、筋肉の衰えた老人の姿になった。男は腰が曲がり関節の弱った自らの姿に驚愕の悲鳴を上げる。周囲の受験者たちも男の変化、いや、老化に驚きの声を上げる。


「そんな曲がった腰と弱い足でハンターになれると思ってるならただの馬鹿だぞ」


 顎を反らし心持ち首を傾げながらそう言い放つリンネは本当に楽しそうだ。男はといえば突然老化した自分に恐怖し悲鳴を上げている。うるさい悲鳴だなぁ。


「おいなあ、あんたオレの話をちゃんと聞いてる? 大人の癖して人の話をちゃんと聞けないなんて、そんなんじゃお里が知れるぞ」


 怒った様な口調だけど、リンネが楽しんでいることは誰の目にも明らかだろう。満面の笑みで怒ったフリをしているのだから分かって当然なんだけどね。


「おま、おまえが、お前が! 化け物め、化け物……オレをどうしたんだ、この化け物!! 元に戻せ、怪物!」


 狂ったように化け物と繰り返す男に、でもリンネはにんまりと笑った。


「その化け物に喧嘩を売ったのはあんただぞ、おっさん。オレはただ訊いただけだ――そんな老体でよく受験しようと思ったな、ってな」


 周囲がリンネに怖れおののき、理解できないものを見る目を向けた。失礼な奴らだ。リンネはただ仕返ししただけだろう? どうしてそれを理解できないのかボクには分からないよ。


「一体お前は何なんだ!?」


 男のもはや悲鳴のような問いに対し、リンネはうっそりと微笑んだ。


「なぁに、ただの奇術士さ」


 そしてリンネが腕を掲げ指を鳴らした瞬間、男は突如爆発的に燃え上がった炎に焼かれた。


「パパの言葉を借りるなら、奇術士に不可能はないのってトコだな」

「ちょっとリンネ。ボクの台詞とらないでくれないかい? ボクから決め台詞を取ったらそんなの、ただの奇術士じゃあないか☆」


 ボクの決め台詞を使ってしまったリンネの頭に手を置けば、唇を尖らせて「だって格好良いじゃねーか」と言った。ボクらはやっぱり気が合うねぇ……。


「仕方がない☆ ここはキミのパパとして一つ、父親らしく息子に譲ろう☆」

「え、マジか!?」


 ホントさ、と言えばリンネは目に見えて喜んだ。まだ知り合って四週間と少し――そういえば初めて父親らしいことをしたんじゃないだろうか?


「ただ、キミが本当の意味で十四歳になるまでお預けだけどね」

「えー」


 つまんねーの、とため息を吐くリンネの頭を撫でてやる。そして待っていたように鳴り響いたベルの音――リンネの機嫌は回復したようだ。試験官の姿を認めたリンネは上機嫌に鼻を鳴らし、二次試験会場まで案内するという男のすぐ後ろへ飛んで行ってしまった。

 ああいうところがまだ子供な証拠だね。

 仕方ないとため息を一つ零して肩を竦め、ボクと同じく会場入りしているイルミ、確か偽名はギタラクルと合流するため控えめに走り出した。





+++++++++
※このシリーズの主人公=ヒソカ
 夢主はあくまでヒソカにとって興味深い存在なだけであり、言うなればスパイス的なもの。つまり夢主と主人公勢とのファーストコンタクトやなんやはさっくり飛ばされます。だってヒソカがメーンだから。2話にリンネ視点が入った理由は話を分かりやすくするためのもの。
 夢主視点はあまり出ない予定ですが、例えばイルミとかキルアとかハンゾーとか……他キャラ視点の話は出る予定です。
2012/06/03

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