赤ちゃんとボク2
道路に飛び出た子供を救う、なんてことをオレがするわけがない。飛び出したのは子供の不注意だし親の責任だと思ってるからな、勝手に引かれてしまえと思っている。他にも犬や猫を救うというのもアウトだ。人間よりも本能が強いんだから、自分で危機回避くらいしろと言いたい。――つまり、オレは他人が引かれそうになっているのを見ても放置する。自業自得だと見捨てるタイプだ。
だが、これはオレの自業自得とは言い難い。公園から飛び出したボールを運悪く踏んでスリップした引っ越し業者の車が、勢い良くオレの方向に突っ込んできたんだからな。
真っ赤に染まったオレの肉塊の上で、真っ青な顔で現場から逃げていく十歳くらいの餓鬼を睨みつける。あの顔、絶対に忘れねぇ。地縛霊でもなんでもなってアイツを呪ってやる! 救急車を呼ぶ必要性がないほどにミンチ肉にされたオレの体。運転手は錯乱して言動が支離滅裂で、野次馬達は口元を押さえてオレから目を背けている。
明日からの三連休、腐れ縁の幼なじみ達と青春十八切符を使って小旅行をする予定を立ててたっつーのに。マジでねーよ。
『おーい、そこの血も滴る良い男さーん』
もうとっくに姿の見えなくなった餓鬼は今だけ忘れ、真っ赤な肉塊を見下ろしていたオレの耳にそんな声が届いた。血も滴るって、ステーキじゃねーんだぞ。顔を上げれば白い服に黒い鎌を持った女が飛んできていた。……死神か?
『この度は事故死、ご愁傷様ですー』
「あー、それって礼を返すべきなのか?」
『いいえー? 規定の挨拶がコレなだけなのでー。で、ですね、他殺や事故死の場合はー、犯人や原因となった人間を呪ったりすることが可能なのですー。貴方はどうされますか、ですー』
「……は? それってどういう意味だよ」
『つまりー、自殺や自然死以外の死亡だとですね、なにかしらの希望を叶える決まりとなってるのですー』
女の言葉に一つ思いついた。
「それって、マンガに出てくる誰それの能力、とかいうのも良いのか?」
『もちのろんですー』
「なら、『家庭教師ヒットマンリボーン!』の六道骸とかバイパーの能力をくれ! あのクソ餓鬼とその親にスプラッターな幻見せ続けてやるんだ!」
オレの命を奪ったんだ、自殺に追い込んでやる。
『なるほどー、良い能力を選びましたねー。チョイスも素晴らしいというか、よくぞそのチョイスをと褒めて差し上げますですよー』
女はオレの言葉に手を叩いて喜んだ――喜んだ? どういうことだ。どうしてかこの女が不気味なものに見えてきた……死神だから当然かもしれないが。女の顔がムンクの叫びみたいに虚ろになり、目と鼻と口の五つの穴が闇を覗かせる。なんだ、なんなんだ!? 馬鹿みてーな話し方をしている馬鹿かと思えば、まさか、こんな。
『六道骸の力は六道輪廻、つまり輪廻転生しても記憶は保持される。つまり貴様は来世でも今の記憶を持つ人間として生活することができるというわけだ……故に、貴様の選択はまさしく良い選択。貴様は自分が自分でなくなることを良くは思うまい』
「……ハッ! なんか起こるかと思えば単なる助言かよ。しかし良いこと教えてくれたな、あんた」
『そしてそれだけではない――しかし、それは転生すればすぐに分かることだ。さあ、貴様の望みを果たすが良い』
「言われなくとも!」
さっきの親子が消えた方向へ走る。実際に地面を蹴るわけじゃねーから変な気分だ。
さぁて、あの餓鬼はどこへ行った? 見つけ次第グロテスクな世界に連れてってやるぜ。
+++++++++ 悪役系主人公……。きっとヒソカとの相性は抜群ですぜ! 2012/05/30
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