赤ちゃんとボク
子供ができた、という連絡が来たのは一月前の話。ボクに知らせずに子供を産んだ女とか血を分けた子供とか、はっきり言ってどうでも良かったから、「へえ、そう☆」とだけ言って電話を切った。だけど、その三週間後にまた同じ女から電話が来た。曰く、「化け物が生まれてしまった、助けて」と。
化け物ってどんなだろうね? かつてあった宗教の教祖みたいに『天上天下唯我独尊』とか唱えたんだろうか。それはそれでなかなか興味深いよね。――そんなことを考えながら彼女の家を訪ねたボクは、とても面白い存在と出会った。
「キミがボクの息子?」
「あんたがオレの父親か?」
先に連絡なんてしなかったからか、ボクの姿を見た瞬間堰を切ったように泣き喚き始めた女は放っておこうとした――んだけど、縋り付いてきたから蹴り飛ばした。そして、ベビーベッドに座っている乳児を見つけたんだ。
猫の毛のようにふわふわしている髪は燃えるような赤で、瞳は二十二金。片目に記号のようなものが浮かんでいるものの、それは今気にするべきことじゃない。赤ん坊とボクは瞳の色以外に共通したところがないように見える。造作は整っているものの所詮は乳児、赤ん坊の顔なんてどれも似たようなものだしね。でも、訊ねたボクに返ってきたのは流暢な言葉だった。
「……質問に質問を返すのはマナー違反だよ☆」
「赤ん坊にマナーを求めることが間違ってると思うぞ」
「なるほど、それは言いえて妙だ☆」
そう、赤ん坊は座っていた。首が据わるはずのない、まだ生まれて一か月の乳児だというのに。……面白い。ボクを見て顔をしかめるでもなく自然体で対応してくる人間なんてそういないし、それがこんなに奇妙で面白い赤ん坊だなんてね! この怪物、欲しいなぁ。育てればきっともっともっと面白くなるよ。ああ、欲しい――この奇妙で歪な赤ん坊が欲しい!
「もしキミが良ければボクと一緒に来ないかい? 一人旅はつまらないんだ☆ 一人くらい旅の供がいても良いと思ってたしね☆」
真ん丸の黄金色の瞳がボクを観察する。ああ、なんてキミの瞳の奥は深いんだ! 楽しみようもない弱者ばかりのモノクロ世界に、パッと差し込む黄金色の光。この怪物の瞳はそれくらいの引力を持っている。愉快だ、ああ、愉快だ!! まだオーラの存在さえ知らないだろうにこの子供は。
赤ん坊は首を傾げ、母親である女をチラリと見た。
「ここにいても餓死を待つだけだからな、良いぞ。あんたについてってやるよ」
「なんとも傲慢な物言いだね?」
「オレは強いぞ、あんたも強いだろうがな」
ますます面白そうだと思いながらも気のないように聞こえかねない返事をする。ガツガツして嫌がられても面倒だし。持ち上げようとベビーベッドに手を差し込めば、それより早く赤ん坊は立ち上がりベッドの柵に飛び上がった。
「歩けるのかい?」
「ああ、だってオレだからな」
「そう☆」
首にかけられた藍色のおしゃぶりを自慢そうに揺らして、赤ん坊はボクを見つめた。ああ、これからが楽しみだ……彼といれば日常はもっと色づくに違いない。
「ボクはヒソカ☆ キミは?」
「リンネだ。よろしくなヒソカ――ところでさ。あんたはオレの父親なのかそうじゃないのか、まだ教えてくれないのか?」
「ゴメン☆ ボクはキミの父親だよ☆」
そうか、と頷いたリンネの髪にそっと触れる。まだ短く細い髪はふかふかしている――楽しみが一つ増えた。
+++++++++ タイトルは完全に遊びです。えへ。赤ん坊を背負ってハンター試験を受けるヒソカって面白くないか、と思った結果がこれだよ! 2012/05/29
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