With はーと



 家光さんとイタリア旅行に来たはずが異世界旅行になってしまってから二日。ここのお金なんて無いし、キャリーを引きながらうろうろと歩いていた私を拾ってくれたのは可愛い男の子だった。

 炊事洗濯掃除――家事を引き受けるかわりに手に入れた屋根の下の生活と温かいご飯。可愛い男の子ことグンちゃんには感謝してもしきれないわ。


「奈々さん三時のオヤツまだぁー?」

「もうちょっと待ってねー」


 保護者である高松君が甘やかしたせいか精神年齢は残念だけど、グンちゃんはとっても良い子。ランボちゃんと違って『待て』が出来るのよ? 目を輝かせながら大人しく待つグンちゃんにニコッと笑いかける。グンちゃんの周りで花が舞った。グンちゃんは本当に可愛いわね、つっ君は大きくなるとどんどん可愛くなくなっちゃって寂しかったのよね……家光さんに『私のレシピを継いでくれる女の子が欲しいわ』って言ったら良かったかしら?


「はいどうぞ☆」


 ごろごろベリーソースをたっぷりかけたパンケーキ――木苺をベースにして半分に切っただけのラズベリーとブルーベリーを混ぜて少し加熱したソースの砂糖は控え目。ベリーの独特な風味が前面に出て、どちらかと言うと塩味のパンケーキには良く合う。

 アイスを添えてグンちゃんに出せば、グンちゃんは嬉しそうに手を合わせて頂きますと唱えた――パパの名前や人種は西洋なのに、グンちゃんの名前や習慣は日本的ね。育ての親が高松君だからってこともあるのかしら? でもグンちゃんの従兄弟もシンタロー君やコタロー君らしいし……。日本が好きなのかもしれないわね。


「美味しいよ奈々さん! 僕こんなに美味しいの初めて食べたよ!!」

「それは良かったわ」


 花を撒き散らすグンちゃんを食堂の入口で見守っていた高松君が、鼻血を流しながら悶えていた。そうよね! グンちゃんは可愛いもの、仕方ないわ……ただでさえ垂れ目なのがさらに垂れて、ちょっと顔面崩壊を起こしてるけどね。顔面崩壊で言ったらつっ君を前にした家光さんもすごかったから気にする程の事でもないし。

 グンちゃんが四方八方に花を撒き散らしてるのを横に高松君を迎えに向かう。高松君も好きなことに一直線で可愛い人なのよね。異世界人である私の遺伝子がバイオの研究に役立つかもしれないと分かるや、嬉々として『いくらでもいてくださって結構ですよ!』って言ってくれたの。優しい人よね。


「高松君」

「ああ、奈々さん……貴女のオヤツにグンマ様があれほど喜ばれるとは思いもしませんでしたよ。これからもグンマ様のオヤツの用意をお願いしますね」


 手で鼻を押さえながら真剣な目を向ける高松君に頷いて、ほにゃほにゃと舌鼓を打っているグンちゃんを二人で見る。卵子提供を受けた子供だから母親が存在せず、父親も生まれる前に亡くなっているというグンちゃん。でも可哀想がるつもりはないわ、だってグンちゃんはもう二十四歳だもの。


「奈々さぁん、おかわり!」

「あらあら」


 つっ君と二つしか違わないとは思えないくらい可愛い――グンちゃんの方が年上なのよね。まあ細かいことは気にしないに限るわ。


「パンケーキはすぐに用意できないの、ごめんなさいね。代わりにホットケーキでも良いかしら?」

「いいよー!」


 口の端にジャムを付けたまま笑うグンちゃんに高松君が喀血した。あら、掃除が大変そうだわ……。


「高松君、血は自分で拭いてね」

「貴女って案外きつい性格をしていますね」


 自分で汚したんだから自分で掃除してくれなくっちゃね。

 それからグンちゃんにホットケーキを作ってあげれば、高松君が更に汚染地帯を増やしていたから、雑巾を渡しておいた。



+++++++++
 70万打リクその1。テンション上げて書いてたら何故か奈々主がサドになっちゃった☆
2012/04/27

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