MY LOVELY NANNY!



☆四月十五日(晴)

 イタリア生活三日目。ようやっと引越し作業も終わったから、職業の斡旋をしてもらいにセンターに行った。

 センターのなんとかさん(名前忘れた)によると日本人のナニー志望ってのはやっぱり珍しいらしくて、なんでわざわざイタリアに来たのと根掘り葉掘り聞かれてしまった。翻訳家になりたくてイタリアの庶民的な生活を体験したかったからだと言えば何故か哀れむような目で見られたのはなんでだろうね?


☆四月十六日(晴のち曇)

 センターの職員さんはマリエさんと言うらしい。昨日の今日で名前を聞くのも失礼だしと思ってたら、同僚さんからマリエって呼ばれたのが聞こえて一安心。

 昨日ナニー登録したすぐ後に、ナニー派遣の打診があったらしい。相手は経験豊富な先輩ナニーでも手に負えなかったという六歳の男の子だとか。どうせ辞めることになるなら新米の洗礼に使ってしまえという裏話があるらしい――っていうか、マリエさんが新人の洗礼だから諦めろって言った。なにそれ恐い。

 派遣は明後日かららしい。不安で胸が痛い。一応これでも子供の世話に関しては経験豊富なつもりだけど、イタリアの六歳児ってどんなのなんだろうね。


☆四月十八日(曇)

 私の気持ちを表したみたいな曇天に、朝から気が沈んだ。こういう時くらい晴れてくれれば良いのにね。

 幸先が悪いなと思いながらメモの住所に行った私は、何故か車に乗せられて大きなお屋敷に連れ込まれていた。今から考えれば馬鹿らしいけど、私は売られちゃうかもしれないって不安で泣きそうになった。部屋をちゃんと見れば客室だってすぐ分かっただろうに、あの時の私は動転してたんだね。そんな中、すすき色よりももう少し濃いくらいの髪をした男の子が部屋に入ってきた。それからは私が世話を焼くはずの男の子、吉宗君に慰められたり頭を撫でられたりでかなりみっともないことをしちゃった。今思い出しても恥ずかしいよーっ!

 あと、ナニー仕事の滑り出しは快調みたい。吉宗君は悪餓鬼だって聞いたけど優しくてとっても良い子だった! これなら続けられそう――だけど、私ってイタリアの庶民生活を学びに来たはずじゃなかったっけ? 吉宗君の両親が日本人ってどういうこと……イタリアに来た意味ってぇぇぇぇ!


☆四月十九日(雨)

 今までのナニーさんたちがどうして吉宗君を嫌ったのかさっぱり分からないよ。実は昨日の帰りに、明日――つまり今日ね――晴れてたら庭の薔薇園を見せてくれるって約束したんだ。だけど今日は生憎の雨……眉をへにょりとさせて『見せたかったのに』って言う吉宗君はとっても可愛かった。

 薔薇といえば、友達のトルコ土産の薔薇ジャムを今朝パンに塗って食べてきたと言ったら、吉宗君も食べてみたくなったらしくてお付きの人(ぼ、ボディーガード?)に『薔薇ジャム用意して』って一言。四時間もせずに私が言ったのと同じ薔薇ジャムが届くってどういうことなの!? お屋敷を見るにお金持ちってことは分かるけど、吉宗君のご両親のご職業って、ご職業ってぇぇぇぇ!


☆四月二十日(小雨)

 昨日薔薇ジャムが届いたのは午後の紅茶の後だったから、吉宗君は今日こそ薔薇ジャムを食べるんだっておお張り切りだった。

 クラッカーに紅いジャムを乗せて食べれば口の中に広がる薔薇の香り。私は好きだけど、中には「香水を食べてるみたい」って言って苦手がる人もいる。吉宗君はそれだったみたいで、紅茶じゃなくて緑茶をお代わりしてた。ごめんねって言ったら『僕も同じ味を食べてみたかっただけだから!』ってフォローしてくれた。吉宗君って良い男だね。吉宗君があと十二歳くらい歳が上だったら惚れてたかもしれない。そう言ったら何故か吉宗君が『今すぐ十年バズーカ持ってこい!!』ってお付きの人に叫び出したからびっくりした。十年バズーカって何だろうね?


☆四月二十一日(曇)

 今日は吉宗君とじゃなくて、吉宗君のお父さんの綱吉さんと会った。綱吉さんのお仕事を継ぐためのお勉強なんだって。まだ六歳なのに、お金持ちの子供は大変なんだね。

 綱吉さんは吉宗君そっくりで、でも髪の毛は吉宗君の方が赤みががってる。瞳の色は一緒……お母さんの遺伝子はどこに行っちゃったのかな? ってくらい似てた。

 綱吉さんは吉宗君となかなか一緒にいられないことを気に病んでるみたいで、私の知ってる限りの吉宗君について話せば凄く喜んでくれた。良いお父さんだと思う。吉宗君についの話てはもちろんだけど私の話や綱吉さんの話にまで話題は飛んで、襟を開いて話したからか綱吉さんと親密になることができた。あんなに良い子のお父さんだから、きっと素敵な人に違いないって思ってたけど、本当に良い人だった!

 でも職業は教えてもらえなかった。秘密なんだって、気になるけど駄目みたい。




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 逆ハ主傍観は、まだ。
2012/04/25


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