迷↑走→イ←デ↓ア2



 ボンゴレリング争奪戦がそろそろ始まる。たしか凪という名の少女が骸と同期合体してスーパーマジカルむっくんになり、ヴァリアー側の守護者候補と幻術バトルするのだったか……。さすがに百年もすると色々話がごっちゃになるな。どこかおかしい気がするが、どこがそうなのかが分からない。

 これからのためにと言って更なる修行に励む三人の邪魔になるわけにもいかず、一人で幻想散歩でもするかと思った一時間前の俺を褒めたい気分だ。

 純和風の――厳島神社にそっくりと言おうか、そのままの建物と、鳥居の前に広がる青い海。現実の厳島神社は案外水が緑色がかっていたり神職の態度に苛っときたりと短所があったが、これは俺の作り出した世界だ――海水は透き通って蒼いに決まってるし神職がいるわけもない。神社の周辺は森で、神社の裏手にある砂利の坂と石の階段を上れば千畳閣が鎮座している。これは太閤さんが寺を建てようとしたのは良いが朝鮮出兵で資金繰りが困難になり、寺院になることがなく、また有名になることもなかった建物だ。ここから見下ろす瀬戸内(偽)が好きだから頻繁にここへ来るのだが……まさか、そのど真ん中にベッドが鎮座しているとは想いもしなかった。そしてそこで眠っているのは真っ白な病人服を着た黒髪の少女。OK分かった、俺がクロームを拾うわけか。


「起きたまえ」


 ベッドに腰を下ろせば、パイプ同士の接合部がぎしりと鳴る。入院患者にあまり優しくないらしい硬いマットレスが少し沈んだ。顔が死人並みに青ざめた凪の睫毛がふるふると震え、濃い色の瞳が俺を映した。


「ここは……あなたは?」


 病院にいるはずが純日本式建造物にいれば驚くのも当然だ。見た目通り柔らかい髪を撫でる。


「ここは君にとっては死と生の境界だ。ここで何もせずに過ごせば、そのまま死ねるだろう」


 ゆっくりと身を起こす彼女にそう言えば一瞬泣きそうに顔を歪め、諦めたように表情を消して目を伏せた。


「君はまだ生きたくないのかね? 世の中には哀しみも苦しみもたくさんあるが、だからこそ小さな幸せの訪れは我々の心を揺らす」


 生きたくないのか、の一言に反応した凪を見ながら言葉を選ぶ。生きたいと素直に言えないのならば『言える理由』を作ってやれば良いだけの話だ。


「ところで、私には養子が三人いる。だがみんな男の子でね。もちろん可愛いし愛しいが……むさ苦しいのだ。運動して帰ってくると汗臭い。食卓に並ぶのは男の顔ばかりで華がない」


 凪がくすりと笑った。


「だが、我が家に養子に来てくれそうな心優しい女の子はなかなか見つからないのだ」


 ちらりと凪の顔を窺えば泣きそうに顔を歪めている。


「ごめんなさい……私、行きたいけど、もうすぐ死んでしまうわ……」


 貴方は天国の人? もしそうなら嬉しい、と答える凪。うむ、言質を取った!


「俺の娘になってくれるのかい?」

「……うん」


 そして俺は凪を誘拐した。





「ところで、ここはどうして厳島神社なの……?」

「俺は平家物語のファンなんだ。一時期日参したお陰でこんなに精密な世界を作ることができたのだから、世の中何が役立つか分からないな」


 語り手が源頼朝なのが気に入らないが、平家物語ファンの俺として平清盛は見逃せないドラマだ。

 二人で裸足になって海に足を浸けながら、そんな話をした。……まだ出会ってから一時間もしていないが、娘が息子よりも可愛いのは仕方ないと思うのだ。




+++++++++
 三人は凪に嫉妬するだろうな……(´・ω・`)
2012/04/19


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