迷↑走→イ←デ↓ア
寝室にあるむっくん・ちーくん・けんくんパペットも今や三十七代目を数える。千種の手縫いだが、柔らかいし良い匂いがするしで一度でも触れると病み付きになってしまう。困ったことだ。
幼児くらいの大きさがある十四代目むっくんに頭を預け、ちーくんとけんくんたちを腹に置いてダラダラと過ごす。そこら辺にいる普通の父親を目指したはずが――どこで間違ったんだろうか、まあ骸たちも俺のパペットをベッドに山盛りにしているからお互い様なのだが。うむ、健全な家族としておかしくないか? 少なくとも前世では親子間でこのような過度な愛情はなかったはずだが。
まあ良い。そんなことに思考を割くよりも睡眠だ。はっきり言って俺という存在に睡眠時間は必要ないのだが、三つ子の魂百までとは正しかった。布団の上でごろごろすることはどんな休息よりも気持ちが良い。
「ハフー……」
ちーくんとけんくんを抱きしめてベッドの上を転がる。三人の気配が近づいてきたのを感じてドア側に体を向ければ、控えめなノックの後三人が真剣な表情で入ってきた。この部屋に対する突っ込みはない――同じ穴のムジナというか、どんぐりの背比べ状態だから当然だろう。
「お父さん」
「父さん」
「とーちゃん」
「どうした、骸、千種、犬」
俺の手の中にあるパペット二体を見て骸が目元をきつくする。どうしたというのだ、一体。千種や犬は逆に嬉しそうだが。
「お父さん、お父さんは――僕たちの中で誰が一番好きですかっ!?」
「…………は?」
「だってとーちゃん、オレを呼ぶのいっつも最後らし!」
「一番僕の名前が呼ばれるのは、僕がお兄さんだからってだけなんでしょう、お父さん!」
「犬がこう言って、骸様が暴走」
「なるほど」
千種によってボソリとなされた解説のおかげで状況が理解できた。つまり、「お父さんの一番はボクだもん!」という喧嘩……言い合いが起きたわけだな。
「俺は三人とも同じくらい好きなんだが」
「信じられません! いえ、同じくらいだなんて嫌なんです!」
「とーちゃん!」
責められてもな、困るのだが。三人とも俺にとっては可愛い息子で、誰が劣って誰が優れているとかそういうことは抜きにして対応しているつもりなのだ。それぞれ可愛いと思う点は異なるし――そうか。
「あえて言うなら、成長を暖かい目で見守り続けてやりたいのは犬だ。お前は今はまだグンと伸びる時期ではないが、体が大人のものになれば力もついて今の何倍も強くなれるだろう。俺は確信している」
骸が傷ついた目をし、犬がひゃほーと歓声を上げた。話は最後まで聞けよ、これからお父さんは良いことを言うのだからな。
「背中を押してやって、その頑張りを応援し続けてやりたいのは千種だ。お前が不断の努力の人間だということはよく知っているからな。お前は着実に実力を伸ばしていく子だから犬のような不安はない」
「はい」
千種が少し顔を明るくした。ある意味一番素直で可愛いのは千種かもしれない。
「そして骸」
「は、はい」
直立不動の姿勢で俺を見つめる骸の頭に手を置く。
「三人の中で、私にとって一番身近な存在はお前だ。お前は百年に一人の逸材で、いつかお前と背中を預けて仕事をしたいと俺は思っている。あと二年か三年もすれば名を継がせても良いくらいだ」
「ほ、本当ですか、お父さん!」
「俺は嘘を言わないぞ」
三人それぞれ目を輝かせるのを見ながら、俺はこの場にはふさわしくないことを考える――どうしてこいつら、こんなファザコンになったのだろうか。原作の『大人なんか信じないんだからねっ。ボクらは三人だけで生きていけば良いんだ』というノリはどこへ行ったのだ。
そろそろまた三人のパペットが増えそうな気がした。
+++++++++ ムスコンとファザコン……あの態度は外用なんだよ、親しく付き合うとおかしい点がいくつか見えてくる。 2012/04/18
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