小鬼と示すアイの話



 おぎゃあと現代に生を受けて十二年。二度目の乳児期は秘技『右から左』を取得させ、前世の全く言葉が通じなかった十数年もあり私は何事にも寛容になっていた。何が起きてもすぐに冷静になるっていうか……。

 でも流石にこれには驚いた。


「リハンはこう書いたのか……」




 隣の席のクラスメイトが授業中にコソコソとなにやら内職をしているかと思えば、なんだか見覚えのある女性が漫画チックに描かれていた。羽衣狐さんっぽい。


「羽衣狐さん……?」


 ついボソリと呟けば、彼女は勢い良く私を見やった。目が怖い。


「知ってるの、ぬら孫」

「ぬら孫?」


 ちょうど良く授業終了の合図。やる気のない日本史担任は鐘が鳴り終わらないうちに出ていき、クラスメイト――誉田さんだったかな?――が私ににじり寄る。


「鈴川さんってばぬら孫ファンだったんだね! それも羽衣狐ファンってマイナー……。私は絶対ぬらりひょん! かっこいいもんね!!」


 畳み掛けるように話す彼女の話に全く着いていけない。困惑する私をよそに「もしかしてちょっと立ち読みしただけとか? なら貸してあげるから読みなよ!」と既刊の全てを渡された。感想待ってる、と言われたから読まなきゃいけないだろうし……と、家に帰ってから読んだら大当たりというか何と言うか。羽衣狐さんやしょうけらとか懐かしい顔が出てきたり、あの時ぬらりひょんがどうして大阪城に来たのかが分かったり。リハン――鯉伴が山吹乙女と恋をしたとか別れとか羽衣狐にばっさり斬られたとか。


「鯉伴……」


 紙面の鯉伴を撫でる。原作軸では既に故人の鯉伴――私は君に何かを残せただろうか? ただ目の前で死んだだけの小鬼だけど、何かを。


「会いたいなぁ」


 指で紙面に『再会』と書いた。会いたい……。話をしたいよ、鯉伴。

 目を閉じて、ベッドに倒れ込み溜め息を吐いた――その瞼の向こうで何かがチラチラと輝いた気がして目を開く。紙面が輝いてる!? ちょうど私が『再会』となぞった跡が発光していた。体を起こして身構える。光はだんだんと強く眩しくなって――視界を焼く閃光が、私の意識をも焼いた。




+++++++++
 コイ=鯉・恋、アイ=愛・会とまあ、解りづらいことをした。
2012/04/10


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