ラ・カムパレラ2
病院からの帰り道、玉ちゃんに背負われているうちに寝ちゃってた。ゆすり起こされれば見覚えのない街並み。えっと、ここどこ?
連れられるまま本屋を探して、見つけたのは地獄先生ぬ〜べ〜。つまりここは元の世界ってことなのかな? でも私、浮世絵町なんて街なんて聞いたことない。異世界? 今回はダーツなんてしてないんだけどなぁ……。
初めての土地にしては迷いがない玉ちゃんの足を信じて歩けば、奴良という表札がかかった屋敷に着く。東京都内で土地代がかなり高い場所にあるはずなのにこれだけの広さがあるってことはかなりのお金持ちだろーな。塀の長さを見るに二千坪はありそうだし。
「玉ちゃん、ここのおうちに用事があるの?」
「ええ。どうやらこの屋敷にここら一帯の長がいるようですから」
玉ちゃんが迷いなくチャイムを押せば、中から明るい返事が上がった。
「はぁい、どちら様ですか?」
扉を開けて現れたのは可愛い系のお姉さんで、落ち着いた色合いの着物をごく自然に着こなしている上品な人だった。口を開けて見上げれば「まあ可愛い」と笑うお姉さん。うーん、お姉さんのが可愛いと思うよ?
「この近くに越してくる予定の者です。今回はご挨拶に伺いました」
とりあえず首ふり人形になって玉ちゃんの言葉を肯定しておけば何も問題ないだろーと思って、コクコクと頷く。
「そうでしたか、なら義父に挨拶にいらっしゃったんですね? 中へどうぞ」
そう言って通されたのは客間らしき部屋だった。床の間に投げ入れの花が飾られてて彩りを添えてた。素敵な日本家屋だなー。
若菜さんというらしい彼女が出してくれたお茶を飲みつつ、桜の花びらをモチーフにした茶菓子を一口サイズに切っては食べる。そしたら玉ちゃんが自分の分も私にくれて、思い切って少し大きめに切って口に放り込んだ。甘くて幸せだなー。
「美味しいですか?」
「うん! 玉ちゃんも一口どーぞ」
名前は知らないけど和菓子に付いてる木製のナイフみたいなので和菓子を刺して口元に運ぶ。玉ちゃんは首を振った。
「貴方にあげた分ですからね」
有難う、と言って頭を撫でてくれる玉ちゃんにニヘっと笑う。おまんじゅう美味しいなー、幸せだなー。と、玉ちゃんが顔を上げた。しばらくしてから開く障子戸の向こうには後頭部の伸びた老人……ぬらりひょん?
「待たせたな」
「いえ、さほどでは」
以前一度見たことがあるぬらりひょんとそっくりなお爺さんを見上げてたら、私を見た瞬間不思議そうな顔をした。
「お主……」
とたん、何故か玉ちゃんの視線がきつくなった。
「この子が、何か?」
お爺さんは玉ちゃんの様子と私を見比べ、首を軽く横に振った。
「いや、何でもない。――ところで、自己紹介してくれぬか? わしはぬらりひょんじゃ」
「よーかいの?」
「そうじゃよ。なんじゃ、妖怪のことを知っとるんかいな。唯人と行動を共にする妖怪は少ないのでなぁ、伝えとらんかと思ったわ」
ぬらりひょんは玉ちゃんをチラリと悪戯っぽく見やった。玉ちゃんはちょっとだけ警戒を解いて私の頭を撫でる。
「この子は特別なんです……私にとって、とても」
玉ちゃんの目は優しい。でも何でだろう、その目の奥には燃える何かがあった。
+++++++++ 執筆チャットにて執筆 2012/04/04
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