傍観(ネビル&シェーマス)



「秀ちゃん」


 のんびりとしたあの声を、もう二度と聞けることはないと。そう、思っていた。人ごみに逆らって振り向けば、ホグワーツ特急から吐き出される餓鬼共の中に、大人が一人、いた。体が大人だっていうんじゃない、心が、顔つきが大人なんだ。すらりとした体躯に柔らかそうな髪の少年には見覚えがないが、呼ばれ覚えがあった。


「もしか……して。優ちゃん、なのか?」

「うん。同い年になっちゃったみたいだね。それも秀ちゃんってば男の子になっちゃって!」


 肘鉄を食らわされむせる。優ちゃんだ、この手加減のなさは優ちゃんだ!


「――優ちゃん!」


 オレは感動のあまり優ちゃんに抱きつこうとして――かわされた。


「あ、ごめんね」


 勢い余って転びかけたオレを見て優ちゃんはにっこり笑った。


「でも、抱きつくのは好きだけど抱きつかれるのは嫌いだって言ったでしょ?」

「せっかくの感動の再会だぞ?! こういう時くらい抱きついたって良いじゃないか優ちゃん!」

「無理無理」


 手を横に何度も振りながら優ちゃんは首も振る。なんて冷徹な、いや、知っていたけれども!


「本気で無理。たとえ好き合った相手でもきっと無理」

「その極端な性格は直らなかったのか……」

「幼児期なんてもう最悪。ボクは抱きあげられるのなんか大っ嫌いだって言うのにあのデブ」

「優ちゃん……」


 オレの従兄は気配りと采配の鬼と呼ばれてて、性別は男だけど次の女将は優ちゃんじゃないかって言われるほどだった。オレと優ちゃんの性格が逆か、性別が逆だったらちょうど良かったのにねと何度となく言われてきた。でも優ちゃんは仕事では完璧だったけど、プライベートでは心遣いとか遠慮とは無縁なドSだった……。


「秀ちゃん、他の子たちが行っちゃうよ? ついて行かなきゃ」

「あ、ああ……」


 ネビル・ロングボトムになった従兄と、シェーマス・フィネガンになったオレ。オレはさらさら原作沿いにするつもりなんてなかったが、優ちゃんもきっと原作なんて知らぬげに好き勝手するだろう。ああ、胃が痛い。優ちゃんがいて嬉しいことは嬉しいが、それと同時に不安も募る。ああ――明日からが怖い。








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