聖☆おちびさん14



 なんだか熱い視線を周囲から感じて見回せば、他の受験生たちが「聖女様系の美幼女キタコレ」とか「聖女様は手が届かないが、手に届くロリが目の前にいる……右腕が疼くぜっ!」とか見るからに危ない人たちが私を見ていた。背筋に怖気が走った。


「ね、ねえキルア。それにしてもさ、キルアってば比較的早く会場に着いたんだね? まだ四十人くらいしかいないみたいだけど」


 エレベーターは私達が降りてから、まだ一人も運んで来ていない。


「ん、まーな! ねーちゃん連れ出すために深夜に出たからな……まだ七時にもなってないんじゃね?」

「あ……そうなの」


 試験開始時刻が何時なのかは分らないけど、だいぶ待たされるだろうことは必至だ。暇つぶしになるものなんて持ってきてないからひたすら暇だ。というわけでしりとりを始めてみた。


「リンゴ」

「ゴング」

「具材」

「イチゴ」

「ゴマ」

「マンタ」

「太鼓」

「ココナッツ」

「月」

「北風」

「銭」

「ニトログリセリン――あ」

「キルアの負けね」


 それにしても物騒な名詞ですこと。

 そんな風に時間を潰している中、見るからに柄が悪そうなのが一人近寄ってきた。にやにやと半笑いで気色悪い。ナンバープレートは四十四番――私達の次に入ってきた人だ。あれから三人受験生が増えている。


「妹連れて受験かぁ? お兄ちゃんも妹守るのは大変だろ、オレが妹守ってやんよぉ」


 いやらしい目で私を見下ろしてくる男に鳥肌が立つ。どうしてこう、私の周りにはまるでどうしようもないロリコン(マダロ)が多いんだろう……私の見た目で寄ってくる人間が多いからだろうな。


「どーもご親切様。けど、コイツ守るのはオレの仕事なんでね! どっか行ってくれない?」

「ガキが何ができるってんだ、ああん? いいからその幼女こっちによこせっ!」


 キルアは私に手を伸ばした男の懐に一瞬で入りこんだ。実害がなかったからか殺さないように威力を抑えたみたいだけど、掌低打で頭がい骨を揺らし鳩尾を殴って吹き飛ばす。

 ちょうど男がエレベーター横の壁にぶつかった時、扉が開いて赤毛の青年が会場に姿を現した。――ちょっと服は奇抜だけど、本人に似合っているから範囲内。私の人格形成がなされたのは服装も髪型もフリーダムな日本だよ? 気にならないっていうか、似合ってるなら良いと思うだけだね。


「おや……☆」


 音を立てて壁にぶつかった男を面白そうに見下ろして、彼はにんまりと笑んだ。


「どうやら、このプレートはボクの元に来たがっていたようだね? 自分から飛び込んでくるなんて☆」


 芝居がかった口調でそう言うや、彼は四十四番のプレートを自分の胸に付けた。そして、豆みたいな見た目の人が困り顔で「違います、四十七番ですぅ」と言っているのを無視して会場の奥へ歩き出してしまった。豆みたいな人は諦めたのかため息を吐いて、どこかに連絡して元四十四番を引き取ってもらっていた。彼、来年は受験できるんだろうか。


「オレたちあいつと連番かよ……」


 四十二番を付けているキルアは顔を盛大にしかめた。気持ちはよく分る。


「私よりましだよ?」

「まーな。ねーちゃんのプレート貸せよ、鞄に仕舞っとこうぜ」

「うん」


 プレートを外してキルアに渡す。キルアは私のプレートと自分のプレートを鞄に仕舞った。


「ねーちゃん、あいつにだけは近寄るなよ? 危険なにおいがプンプンする」

「話しかけられない限り私から近寄ることはないから安心して、キルア」


 ゲイかバイにしか見えない雰囲気っていうんだろうか? ああいう類の人は独特の雰囲気があるんだよね。私が見るに彼はバイだね! 三百年の経験則から弾き出した、まあまあ信頼性の高い感だよ!


「でもキルアも気を付けてね。あの人は危険だと思う」


 ゾルディック家の嫡男が危険なバイにお尻を開発されちゃいました、なんてことになったら……あのバイの人は明日の日の目を拝めないことになっちゃう。キルアの目を見ながら言えば、真剣な表情で頷いてくれた。


「ああ。オレからは近付かないようにするし、近寄られても逃げる」

「それが良いよ」


 私は大きく頷いた。私ももちろんだけど、キルアのお尻が薔薇を散らすことになんてなったら……シルバ君とキキョウさんに顔向けできない。

 新・四十四番が入ってきてからはどうやら受験者の入場ラッシュが始まったらしく、どんどんと人口密度が高くなっていった。キルアと同年代っぽい少年の声とやけにオジさん臭い言い回しの青年の声、中性的な声が聞こえてきたと思えば会場の中心部で悲鳴が上がったりと忙しない。

 ――いやさ、ここまでボケておいて今さら言うのもなんなんだけどね? 新・四十四番がヒソカで今さっき入ってきたのが主人公組だとか、そういえばトンパが近寄ってこなかったなぁだなんて思ってることとか、やる気満々なキルアが実は九十九番のはずだったとか、視界の端に見えたギタラクルが私をガン見しているとか、胸がキリキリ痛いんだよ。

 本当は受験したくなんかなかった。原作に巻き込まれるの必至とか泣きたい。ツナぁ、早く迎えに来てぇ!











+++++++++
 おちびさん は 混乱 している!
 ロードを盗んできたので、出発が早くなった→会場に着くのも早くなった→キルア四十二番、ロード四十三番。
2012/03/12

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