聖☆おちびさん13



 神の娘になってから数年、キルアが家出をしたという連絡が来た。――でもその前に、聖女教本部にキルアが飛び込んできた。


「家出なんて、どうしたのキルア?」

「だって……」


 唇を尖らせたまま沈黙を守るキルアに仕方ないなとため息を吐く。家出の理由は知っているけど、本人の口から言わなければ意味がないよね。


「キルア、ちょっと気分を変えようか? そうだね――ハンター試験でも受けてみるとか。広い世界を見たいならハンター試験はうってつけだよ」


 他にも手はあるけどアルバイトなんてお坊ちゃんなキルアには不可能だし、遊び呆けるくらいなら試験を受けた方が何倍もマシだと思うんだよね。

 キルアは私の言葉に首を傾げてしばらく悩み、コクリと頷いた。


「受けるよ。でも、皆には内緒にしてくれよ」

「うん、じゃあ申し込みしようか。私も会場の場所くらいなら教えてあげられるしね」

「ああ」


 ついでにキルアは私の地位と言うか身分を知らない。単なる『親戚で聖女教の幹部なお姉さん』だと思い込んでるからね……実は地上では向かうところ敵なしだとか、聖女教の教祖かつ最高権力者である神の娘本人だとか、三百歳を超えてるとかは教えてないんだよ。だってほら、ゾルディック家が私を祖先として神の娘として信仰しているとはいえ、親戚であることに変わりはないし。平和な親戚づきあいくらいしたいんだよ。


「有難うねーちゃん。オレ、ねーちゃん以外に頼れる人いないし……困ってたんだ」

「なに、お姉ちゃんに任せなさい。可愛いキルアのためならお姉ちゃんは何でもできるよ」


 ――という会話があったのがつい二週間前のこと。


「なんで私、ここにいるわけ?」

「だって! 一人じゃ心細いし!」

「ツナになんて言えば……ザンザスに殺される!!」

「なんだよねーちゃんは心配性だなぁ。ザンザスとか言う奴がどんな奴かは知らないけどオレがおっぱらってやるって!」


 気が付いたらキルアに誘拐されていた。そりゃあ私は小さいけどさ、まさか鞄に詰めて誘拐されるだなんて思いもしなかったよ。キルアに簡単に誘拐を許した警備体制と誘拐を決行したキルアに呆れる。


「ねえキルア、顔を隠したいんだけど何かない?」

「ん? ああ、これな」


 キルアが別の鞄から取り出したのは薄桃色のポンポンが二つ付いた白い帽子とやけにゴツいうえ左右の視界がないサングラスだった。


「何これ、嫌がらせ?」

「そんなんじゃねぇよ」


 年号眼鏡以上のインパクトがあるサングラスを振りながら訊ねれば、キルアは顔をしかめた。


「オレだって、ねーちゃんが有名人だってことくらいは知ってる。だから、これなら顔の印象よりもサングラスの印象のが勝ると思って」


 どうやらキルアなりに気を使ってくれたらしいけど、勝手に誘拐したことを考えると有難いこととは思えない。ハンター試験くらい一人で受けなよ……。


「キルア……貴方、私のことを考えてくれてるんだかくれてないんだか」

「なんだよ、オレはねーちゃんがずっと本部に缶詰じゃつまらないだろうと思ったのによ」

「だからってハンター試験はないよ……」


 仏頂面のキルアを宥めるより、私を試験会場に連れ込んだ行為に呆れる方が今の私の頭を占める。ザンザスがツナを殺しちゃったりなんてしないよね? ああ、不安だ。

 豆みたいな小人に渡されたナンバープレートを眺める――四十三番。携帯を持ってきいるわけもないから本部に連絡も出来ないし、ネテロが来るまで待つ他ないか。体力がないわけじゃないし自信がないわけでもないけど、キルアの無謀な行為にため息が漏れた。










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 ひさしぶりのおちびさん。ちょっと短かったですね……。
2012/03/09

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