Pink polaris!8



 サワダに引き取られて初日。ボクはサワダの部屋で、クッションを抱えて床に座りながら霧としての能力についての講義を受けていた。サワダの説明は順を追ってしてくれるからとても分かりやすい。


「無いものを有るように、有るものを無いように見せるのが霧の真骨頂だよ。つまり言うなれば、人の感覚を騙すんだ」

「言葉だけで?」

「いや、言葉ももちろん大事だよ。でも口だけじゃ説得力がどうも足りない。どうしてだろうか一緒に考えてみようか。――騙す例として、たとえばオレが着ているこの服。これがブランド品だと騙す。どんな騙し方にする?」

「汚したら弁償にスゴくお金がかかる――はずだよね? だからわざと汚させてクリーニング代を取る?」

「良いね。だけど、言葉で騙すにはそうに見せるように行動する必要がある。さて、ここに見るからに中流家庭のサラリーマンといった風情の男と、見るからに金持ちといった風情の男がいるとするよ。ブランド服を着ていそうなのはどっちかな?」

「そりゃ、金持ちに見える方に決まってるよ」

「そう! ブランド服を着ていると言うなら、金持ちに見えるように振る舞わなきゃね。ちょうど良いことにヒラにはそのお手本をずっと見てきただろう? その真似をすれば良い」


 ボクはボスの姿を思い出した。綺麗なスーツを着て、少し人を見下したような雰囲気のする男。髪はベタベタしてなくてサラサラで後ろに撫でつけられ、口元には皮肉な笑みが浮かんでいた。椅子には足を組んで座っていたっけ。あんな感じかな。


「分かった。言葉だけじゃなくて、見た目でも騙さなきゃ説得力がないんだね?」

「そう言うこと。じゃあヒラは今、視覚――見るってことが、人間が状況を判断する時にとても重要な役目を負ってるって分かったね。先ずヒラが覚えるのは人の目を騙す手段、幻覚だよ」

「幻覚? 麻薬でも使うの?」


 サワダはボクの言葉に目を丸くして、ケラケラと笑い声をあげた。


「あははははは! はっ、ははは!! 麻薬っ!! それは――そうだね、普通幻覚って言ったらそっちだよね! すっかり忘れてたよ!!」

「違うの?」

「ちが、違うよ。あー面白かった。そっちの幻覚じゃなくて、騙す方だよ。オレやヒラが、他人の感覚を騙すんだ」


 そう言われても感覚を騙すなんて未知の領域だ。一体どうするんだろう?


「どうやってするの?」

「それはね、こうするんだ」


 サワダの手が光った。手を前に差し出せばネズミやウサギ、小さな獣が次々と走り出てきた。


「手品!?」


 ボクが驚いている中、サワダはそれに答えずに片手を上げた。その手にはハートのエース。だけど手首をスナップさせた瞬間それはスペードのキングになっていた。


「マジシャンみたいだ」


 ボクは初めてすぐそばで見たマジックにため息を吐いた。


「いや、これはマジックじゃないよ。どちらかというと魔術や奇術に近い」


 サワダは首を横に振った。


「あのネズミ、見ててごらん」


 サワダが指さしたネズミは壁に向かって突進していた。そしてそのまま――壁に飲み込まれた。


「壁に消えた!?」

「違うよ。幻覚なんだ、このネズミも、ウサギも、小鳥も。実際に生きているものじゃなくて、オレが想像力で動かしているだけなんだ」


 サワダはそれから幻覚について詳しく説明してくれた。ボクの潜在的な能力が『霧』に一番合っていることや、能力の使い方等々。賞金を稼ぐために勝ったり負けたりしながら億万の金を貯めるその姿は、どこの誰よりも格好良く見えた。






 二ヶ月も過ぎる頃にはボクもボクなりの能力を編みだし、サワダに天空闘技場に出る許可をもらった。それでもまだ、サワダがそんなにしてお金を貯める理由を教えてもらえてないんだよね……兆を越えたら教えてくれるって言ってたけど。あーあ、早くサワダが一兆ジェニー貯めてくれないかな!

 それと最近、人やボクの周りに白い煙が見えるようになってきたんだけど、これってどうしたんだろうね? サワダなら知ってるかな……サワダは白い煙が溶けずにピッタリくっついてる。サワダみたいな人を他にも何人か見たけど、一番安定してるのがサワダかな。サワダなら何でも知ってるよね、きっと。














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 今回は少し短い。他に書きたいものがあったので、そっちに時間を取られた……。そして予定から遅れた(^p^)
01/01.2012

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