Pink polaris!7



 三日もすればフェイとノブナガは私にべったりになった。私は一人の人間としても慕われていると思うが、彼らを形成する基盤を確固としたものにできる唯一の存在だからというのが大きいように思う。何故ならザンザスが十代目の地位に固執した理由も、二人と同じだったのだから。自分を唯一自分たらしめているのは父親と名乗る九代目のみ。あれは傲慢ではなく不安の裏返しだったのだ。里親に引き取られた幼児が子供返りするのと同じ理論。――ああ、ザンザス。もう二度と会えない私の半身。骸と連絡が取れたから元気にしていることは知っているが、ビデオレターを見るのと実際に会うのは違うのだ。寂しい、会いたい、会って話したい。だがそれは無理なことだ。

 まだ室内に押し込められている私は、この家の主のものだったという安楽いすに腰掛け、ノブナガとフェイが持ってきた布をチクチクと縫って着物を作っていた。着物なら少々の体格の変化に合わせられるうえ、凝った型紙も必要としない。帯は二メートルは欲しいが、そうなると縫い合わせて長さを補う必要がある――みっともないが仕方ないか。

 と、フェイやノブナガではない気配がこの家へ向かって駆けてきた。ここ数日、家の前へ来ては散々迷って引き返していく気配だ。しかし今日はもう一人連れているらしい。覚えのある気配は背が高く細身ながらもガッチリした体型だがもう一人はガッシリしている。しかし栄養価が足りないのだろう、体重が軽い。


「入んねーのか?」

「うっせ、今入るんだよ、今」


 五分近く扉の前でうろうろと歩いた後、もう一人にそう言われて少しどもりながら答える声。誰だろう。将来の旅団の仲間だろうか。


「しっ、しつれーすんぜっ!」

「邪魔するぜ」


 そう言って入ってきたのはどう見ても、フィンクスとウボォーギンだった。やはり二人とも痩せていて栄養状態が悪い。安楽いすから立とうとして着物を思いだし、横のテーブルに置いて立ち上がった。


「ようこそ、私はマチだ。あんたたちは?」

「オ、オレはフィンクス!」

「オレはウボォーギンだ。ウボォーと呼んでくれ」

「あっ、なっならオレはフィンな!!」

「分かった。フィンにウボォーだね。まだ病み上がりで何のもてなしもできないが、話し相手になってくれると嬉しい」

「い、いや! いきなり押し掛けたのはオレたちだしな!! 気にすんなよ!!」

「フィンの言う通りだぜ。病人は大人しくしてろ」


 体がだるいのは当然のことだ、今現在もう一つの本体とも言える分身が室内で修行をし終えたところなのだから。

 安楽いすに再び座ってベッドを勧めれば、二人は並んで座った。身長差は今のところそれほどないのにウボォーの座高が高いのは、これからの成長が期待できる証拠だろうか?


「今日はどうしたんだい? わざわざそっちから会いに来てくれるなんて。――それも、クロロに呼ばれたわけでもないだろう?」

「聞けよマチ。こいつノブナガからお前の話を聞いて、お前にこ――」

「ううううううううウボォォォ! 黙れっ! 黙りやがれ畜生テメーなんて嫌いだ!!」

「おい、ちょっと泣くなよ! 分かったよ言わねーよ!」


 一体何なんだ? フィンはウボォーの言葉を突然遮ったかと思えば、ウボォーを顔を真っ赤にして罵りながらうっすらと涙を浮かべている。訳が分からない。そして罵るだけでなくボカボカとウボォーの腹を殴りだした。二人の間に一体何が起きたんだか。


「で、会いに来てくれた理由は教えてくれないのか?」

「ああ、ノブナガとフェイに会ったろ? んで二人が自慢すんだよな、マチは頭が良いとか何でも知っているとか格好良いとか」

「何でも知っているわけではないのだがな……格好良いのか」

「少なくともオレらの知らないことを知ってるだろ。だからオレらも聴きに来たんだぜ!」

「なるほど」


 見るからに挙動不審――ないしは繊細そうなフィンと、何事も大雑把そうなウボォー。この二人共が興味を持ちそうな話題か。フィンを分からないように観察すればうっすらと筋肉がついている。日常生活で付く筋肉ではなく、鍛えて手に入れる類の筋肉さね。ウボォーは言わずもがなだし、ならあの話にしよう。


「二人は知っているかな、とある街に天空闘技場という建物があることを。そこは世界で二番目に高い存在で、一番は天下の殺し屋一家・ゾルディック一族の暮らすククルーマウンテン。その次に高い」

「ククルーマウンテン?――って、何だ?」

「そうさね、丘は分かるね?」

「そんくらい分かるさ!」

「なら、丘が凄く大きかったら、その頂上は高い場所にあるだろう? 遠くからだとお椀を伏せた様に見える。つまり、山の頂上は普通よりも空や星に近いのさね」

「ほ、星に近いのか? なら、星に触れるのか?」

「いや、星には触れない。だが、この世で一番星に近いのがククルーマウンテンで、その次が天空闘技場さ」


 と、そこに私の昼食と自身の昼食を持ったクロロがやってきた。


「面白そうな話だな。何故星には触れないんだ?」

「ああ、有り難う。――物理的な、あーっと、触る・見る・聞く・味わう・嗅ぐことに関する面から言えば、星には熱くて触れないということがある。例外というか触れる星も沢山あるが、先ず熱くて触れない星から教えようか」


 テーブルに作りかけの着物を置いて、リゾットを受け取り膝の上に置いた。


「蝋燭の火は明るいだろう。しかし、触ると熱い。つまり光る存在は、光というものと一緒に熱を出している。星は光と共に熱を放出しているから触れない。ついでに例外の熱くない星の場合は、他の光っている星の光を反射しているから光って見える。晴れた日に白いものがまぶしく見えるのと同じことだ」

「なら、星は全部白いのか?」

「いや。黄土色や赤もある。白しかないわけじゃない、というか白い星がメインというわけじゃない」

「暗い色でも光るってわけか? 何でだよ、おかしいだろ」


 ウボォーが首を傾げる。私もそこまで詳しいわけではないんだが……頑張る他ないな。


「話は変わるが、黒い色の服を着ると、白っぽい色の服を着るときよりも熱いと思ったことはないか?」

「ああ、ある。それがなんか関係すんのか?」

「関係するのさ。黒は光を吸収して熱に変える。これの理論は私もきちんと思い出せないから聞かないでくれ。逆に、白は光を吸収せず反射するから熱くならない。暗い色は光を吸収するが、全く反射しないわけではない。反射しないと真っ黒に見えるからな。星のない夜は黒いだろう、それと同じだ」

「分かったような分からないような……分からねーや!」

「フィンはここまで理解できたか?」

「い、いや、分からねえ」

「クロロ」

「聞きたい点がいくつかある。だが、それを聞く前にマチ、早くリゾットを食え。冷めるぞ」


 膝の上に視線を戻せば、さっきよりも冷めたリゾットがあった。――どうやら私は説明する・人に教えるということが好きだったようさね。フェイやノブナガに教えるのも楽しいし、クロロのような理解の早い生徒に教えることもワクワクする。まだまだ素人講義だが、ついてきてくれる存在がいるというのは嬉しいことだ。


「お前たち昼飯食わないつもりか?」

「あっ」

「もらいに行ってくる!!」

「待てよフィン、オレも一緒に行くっての!」


 クロロの言葉に二人はバタバタと家を飛び出した。


「平和だ……」


 窓の外の、スモッグに汚れた空を見上げて呟いた。生活環境としては最悪な流星街なのに、どうしてこうも平和で、幸福で、心安らぐのか。皮肉すぎる現実に、つい口元を歪めた。














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 やっと更新! 説明というか、桃『星』なので星に関する話をしたかった。
12.30/2011

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