聖☆おちびさん11



 何故か私達の近くにいた執事さん達の一人が消えたのを不思議に思いながらイルミと歩いて山を下りた。半引きこもりの軟弱さ限りない私だけど、買ってしまったオーラのせいで常人を大きく引き離す体力と筋力をしている。便利だけどいらなかった。


「ロードは、偉い人だって訊いた」

「ん? まあ、そうだね」


 前会った時はミルキが産まれる産まれないのでバタバタしてたし、その前は私の都合が悪くて一年半ほど遊びに来れなかった。昔は「そういうもの」として受け入れていたことが今では不思議なことなんだろう。


「私はとある組織のトップだからね。シルバ君やゼノに仕事を回すこともある」

「オレんち高いよ?」

「まあ、それはね」


 執事さん達がはらはらしているのが分かる。私はそんなことで怒ったりなんかしないから安心してください。

 私の直接の子孫ってわけじゃないけど、ゾルディック家は私を祖先として信仰している。信仰の対象から金を取るわけがないんだけど、まだそこまでは教えられてないみたいだ。私もお金を払うよって毎回言ってるんだけどね……今まで払うはずだった依頼料が通帳に貯まってるんだけど引き取ってくれないものか。


「ロードってどこのトップなの?」

「んー、それはまだイルミには早いかな。シルバ君から聞いてね」


 まだゼノやシルバ君が教えてないなら、私が教えるのは駄目だろう。それにイルミはまだ八歳なんだから、子供らしく接して欲しかったり。シルバ君はゼノが教えるのが早かったせいで畏まっちゃって、シルバ君だけ呼び捨てにする機会を失っちゃったんだよね。


「オレだけ仲間外れはずるい」

「ふふ、私はこれでもイルミの十倍以上生きてるからね? イルミもあと三年もすれば教えてもらえるよ」

「――ロードって神族なの?」

「違うよ。でも長生きだよ」


 一体いくつまで生きるか、私本人にも分からないんだけどね。

 原作では神族なんていうのは登場しなかったはずだけど、私というイレギュラーがいるからか、それとも元々ここが純粋なハンター世界じゃないのか……まあ気にしちゃ駄目だろうな。


「オレ、ロードと一緒にいたい」


 可愛いことを言うイルミにキュンとした。でもそれは駄目だ。まだイルミは幼いし、跡継ぎだからね。


「父さんや母さんはミルキを鍛えていれば良いよ。オレ、ロードの下で修行する。ロードは強いでしょ」

「まさかそうくるとはっ」


 純粋に私と一緒にいたくて、じゃなくて、強くなりたいからだったのか。乙女心をもてあそぶとは、また一桁のくせに将来有望っ!……なんてね。


「イルミ、でも私はそんなに強くないよ?」

「嘘。だってオレの怪我すぐに治した」

「それは治癒だからね。包帯を巻くのが上手な人が注射も上手いわけじゃないのと一緒だよ」

「……? 良く分からない」

「えー……じゃあ、鋲が得意だからって鞭も得意ってわけじゃないのと同じ、とか?」

「なるほど」


 納得した様子のイルミに脱力しかける。そりゃあさ、そんな例をあげた私も私だけどね? でも、この例で納得できるイルミの将来が少し不安だよ。

 それからは他愛もないことを話しながら山を下り、試しの門の前に着いた。首が痛くなるほどの大きな扉は石造りで、それぞれの扉にT〜Zの文字が書かれている。

 周囲を見回してミケを探すけど、ミケの姿はなかった。ぽっかりと空いたその空間にはミケの毛らしき動物の毛が落ちていたけど本体の姿はない。散歩中なのかな。


「あれ、ミケがいない」

「この時間はいつもここにいるの?」

「うん。ミケの散歩は夜だから。忍び込もうとした奴らを食べながら巡回する」

「あー、うん」


 うん。聞かなかったことにしよう。


「門番の家が近くにあるから、そこに行く?」

「えっ!? 行く行く!」


 ゼブロさんだっけ? がいるんだろうな。お皿からスリッパまで何もかもが重い小屋だったはず。なんだか楽しみだ。


「その前に試しの門開いて。ロードなら五の扉にも届くと思う」

「……私が?」

「うん。オレは二の扉までしか開けられないけど、ロードなら大丈夫だろ」


 何でだろう、さっき私は強くなんてないって言ったはずなのに。


「するの?――私が?」

「うん」


 無表情なはずなのにキラキラした目を向けられて、私はウっと詰まった。期待が重い、そんな顔されたら自分の心の汚さが見える気がして恥ずかしい。そんな目で見ないでよぅ。


「わ、わかった。試しの門を押してみるよ」

「うん!」


 せめて三の扉は開かないと、イルミの夢を砕くことになってしまう。みんな、オラに力を……自信なんてさっぱりないんだよ!

 扉の前に立って息を整える。執事さんたちの心配そうな視線が背中に刺さり、いたたまれなさがこれ以上なく沸き上がる。うう、したくないよ、怖いよ……。


「行きます!」


 扉に手をかけて押す。グッグッと力を掛ければ扉が開いていく――何の扉まで開いたんだろう? そう思って上を見上げた私の目には、四の扉まで開いているのが見えた。よ、良かった!! でも四の扉って何トンだっけ。一の扉が二トン、二の扉が四トン、三の扉が十六トンで、四の扉は二百五十六トン――だっけか。人間捨ててる気がしてくるね。


「ロード凄い。四の扉まで開いた」

「ハハ、褒めてくれて有り難う」


 目を輝かせるイルミに乾いた笑いを返す。イルミは無表情のまま何度も頷きながら言った。


「オレも負けてられない」


 私はさっさと負けたいよ。なんて、口に出せないけどね。














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いなくなった執事=ミケを移動させるために先行。
12/21.2011

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