Pink polaris!6



 私が目覚めてから二日ほど過ぎた。天空闘技場の分身体は三十階へ上り、本体の私も動き回れるまで回復した。


「クロロ、そろそろ私も動いた方が……」

「病人は休んでいろ。仲間がそろそろ会いに来るからな」


 申し訳なさにそう言ってみても糠に釘、休んでいろの一点張りだ。私としてもそろそろ体を動かさなければ鈍るのでストレッチくらいはしたいと思っているのだが――分身が今現在闘技場で戦っているということには目を瞑って。


「クロロ」

「マチの体はボロボロだとジジイが言っていた。まだマチは休むべきだ」


 そう一刀両断されては私も反論するべき余地がない。この世界に来る前は本当に瀕死だったが、現在の私はちょっと栄養不足と体力の消耗が激しいだけの健康体。だが私の判断基準はどうやら他の者からすればおかしいらしい。寝ていろと言われても、このくらいのだるさは苦痛ではないのだが……。


「フェイとノブナガが前からお前に興味津々らしくてな。お前はジャポンかそこら――エイジアンの出身だろう? 同じ人種だから親近感があるようだ」

「分かった」


 私の髪は桃色なのだが、エイジアン系の顔ということが重要なのかもしれない。

 と、気配が二つ近寄ってきてこの小屋の扉の前で立ち止まった。会話しながらだったからクロロにも分かり、扉の外に声をかける。


「二人とも入れ」

「命令するな」

「うい、入るぜ」


 十歳かそこらだろう二人はあまり丁寧とは言えない動作で扉を開けた。クロロやパクと同じく襤褸をまとった少年たちはやはり細く、私でも折れてしまえそうな手足をしている。

 フェイタンもノブナガも大人になった彼らを予想できる造作だ。しかし二人ともトレードマークといえる服や髪形ではない。


「おっ! やっぱしエイジアン人だよな!!」

「見ればすぐ分かるよ――しかし髪が桃色ね」

「マチ、二人はフェイとノブナガだ。ストレートヘアがフェイタン、無駄に背が高いのがノブナガだ」

「ああ、よろしくノブナガ、フェイタン。知っていると思うが私はマチ。しばらく前からクロロの世話になっている」


 エイジアン人だが、先祖に外国の血が入っているから髪の色が黒ではないと説明する。ノブナガは少々大袈裟に見えなくもない大仰な動作で頷き、フェイタンはコクリと一つ頷いた。


「ワタシは歓迎するね」


 抱拳手――胸の前で右の拳を左手で包み込む中国式の礼を取ったフェイタンに同じように返す。これは利き手(殴ったり武器を持ったりする手)を左手で抑える、つまり相手に害意がないことを示す。


「初見でコレ礼と分かる奴そういないね。お前ワタシと同郷か?」

「いや。しかしその礼を何度か見たことがある」

「そうか」


 少ししょんぼりと肩を落としたフェイタンの姿に、まだ彼らは子供なのだということが改めて実感させられた。原作のイメージが強烈なせいで、私は彼らの心が強いと思い込んでしまっている節があるようだ。


「ならオレと同郷か!? なあ、オレは大人になったらジャポンに行くって決めてんだ! ジャポンってどんなとこだ!?」

「――そうさな、着物という民族衣装を着て、髷を結うのが古来からある格好だ。しかし最近はそういった格好は逆に珍しい。これはフェイタンの郷でも言えるが、箸という二本の棒を使って食事する」


 目を輝かす二人に箸の持ち方を教えようかと言えば勢い良く頷いた。異常なほどの「郷」への執着の理由を考え、少しだけ分かった気がした。親もない、兄弟もない、ここにいる彼らにあるのは捨てられた存在というカテゴライズのみ。流れる血への関心・興味、自分が属すはずだったコミュニティへの執着――。クロロが二人を少し羨ましそうに見ているのもそのためではないだろうか?


「クロロも外の世界について知りたくはないか? いつか外へ飛び出すのだろう、外の常識を知っていて損はない」

「――あ、ああ」

「なに、これは私からの恩返しさね。拾ってくれた礼と思えば良い」


 年下の子供から聞くのは抵抗があるからなのか、それとも違う要因があるのか、尻込みしたクロロにそう言った。二人にはそこらへんに座るように指示し、クロロは自分だけ椅子に腰かけた。


「あ、ズリーぞクロロ! お前だけ椅子かよ!!」

「早い者勝ちだ。悔しければ取ってみろ」


 はん、と二人を鼻で笑ってクロロは悠然と足を組んだ。フェイタンはもう椅子がないことと私の座るベッドを見て、ニヤリと笑うとベッドに座った。煎餅マットレスのベッドはかつて私が使っていたそれとは比べる方が馬鹿らしいほど寝心地が悪いが、椅子として使うにはちょうど良い。


「フェイ!」

「ハッ! 負け犬は椅子に座てろ」

「んじゃオレも座るか」


 私を挟むように腰かけた二人は、挑発的にクロロを見やった。歯ぎしりしているクロロにニヤニヤ笑い、そして私を振り返る。


「さあワタシの郷について話すよ!」

「ちげーよ、マチはジャポン人なんだからジャポンについて話すんだよ!」

「――どっちでも良いだろうに」

「違うわい!」

「違うよ!」


 何故か初対面ながら友好的な二人に内心それで大丈夫か幻影旅団と突っ込みながら二人のするに任せた。














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 気張って書き上げた。おなか減った。
12/13.2011

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