語物るが繋げる物語2



 懐かしい声に呼ばれた気がした。フと顔をあげればパクが心配そうに私の名を呼ぶ――気のせいか。あそこは復活の世界、ここはハンターの世界。私のようなイレギュラーでもなければ境界を越えるのは難しいだろう。


「いや、ちょっとな。懐かしい相手から呼ばれたような気がしたんだ」

「懐かしい声?」

「私が生まれた世界の男の声さね。同じ目に遭った代え難い半身さ」


 私と同じように居間でくつろいでいたフィンクスやシャルが顔を上げる。そして何故か暖炉の前で本を読んでいるクロロを見やって顔を青醒めさせた。


「ザンザス……元気にしていることは知っているが、やはり生で声を聞きたいね」


 骸と幻想世界で会った時に動画のやりとりをしているから元気だということは知っているが、話しかけたら返事がくる、そんなことは無理だと分かっている。


「――その、ザンザスとか言う男は、どんな人間だったんだ?」


 独り言のつもりでこぼした言葉だったんだが――そう訊かれて少々悩む。どんな人間だったか、か。


「理不尽を許せない、嘘をとても嫌っている。父と思っていた男に裏切られたからね。そしてそれは私にも言えることだ」


 シャルたちは皆渋面になった。私の過去を知っているからな。


「ザンザスは私と同じく、ボンゴレ十代目ドン候補だった。だがそれも本当の次代ボスを守るための詭弁に過ぎなかった」


 まさに、人を人とも思わない悪魔の所行。


「私とザンザスはまさに表裏一体だった。血を継いでいないが候補だった男と、血を継いでいるが身代わりでしかなかった女。ザンザスのためなら命だって惜しくなかった」


 フィンクスがクロロを見て顔を真っ青にしている。さっぱり意味が分からない。殺気もないし、きっと私には関係のないことだろう。


「もしまた会えるなら会いたいものさね」


 二度と会えないが、と言い足せばパクが肩をさすってくれた。一体どうしたと言うのだろう、私は。復活世界を思い出してしんみりとすることは時々あるが、ここまで愚痴をこぼしてしまうのは十年以上ぶりだ。


「ふふ、すまない。今日は調子が悪いみたいだ。部屋で休むことにするよ」


 ソファを立って皆を見回す。


「分かったわ、ゆっくり休んでちょうだいね」

「おう、なるたけ早く元気になれよ、オレたちのために」

「寝たら元に戻ってね」


 パクが優しく微笑み、フィンクスとシャルは変なことを言った。意味が分からない。


「湿っぽいのは合わない。ゆっくり休め」


 クロロが本から顔を上げてこちらを見ていた。頷いて居間を出る――出ようと、した。

 屋敷の前に蜘蛛ではないオーラが突如として現れた。強大なオーラ量に全員の腰が浮いた。


「敵か?」

「一人だけみてーだな」

「ちょっとー、なんでこんな時に襲撃なのさ? 空気呼んでよね」


 男三人が私とパクに留守番を命じて窓から飛び降りる――しかし、このオーラというか気配はどこかで触れた覚えがある気がする。どこだ? どうしてこの気配にこんなに親近感が沸くのか分からない。何故、守護者連中でもないし……まさかっ!


「止めないと!」

「どうしたの、マチ!?」

「あのオーラは、あのオーラはザンザスだ!」


 三人が飛び降りた窓に駆け寄る。眼下では三対一の戦闘が繰り広げられていた。――ザンザスの戦いを見るのはあれ以来だが、ライガーなんていたか? 念獣なわけがないし、ペットを飼い始めたなんて話も聞いていない。


「四人とも止まれ!!」


 声を張り上げて叫ぶ。先ず三人が動きを止め、そしてザンザスがこっちを見上げた。


「マチ!」

「――ザンザス!!」


 窓から飛び降りる。居間は三階にあるが私達には高さなどないも同然で、軽く降り立つとザンザスの元に走った。


「どうしてここへ!?」

「ハッ、カスが。オレを誰だと思ってる?」


 抱きつけば抱き返される。あれからもう二十年近く経っているのにザンザスは若々しい……若すぎないか? 別れた時とそう変わらないぞ。


「会いに来てやったぜ、お前の大親友様がな」

「自分で言うか、それを。しかし否定はしないよ」


 体を離して見つめ合う。やはり若い。骸を仲介してやりとりしていた顔よりも十歳以上若返っている。


「しかし、どうしてここへ」

「カスのせいで体にガタがきやがった。あのカスが、本当に無駄なことしかしやがらねぇ」

「ザンザス」


 氷の中で過ごした八年は、私にも、もちろんザンザスにも悪影響を残したようだ。


「ねーねー、オレたち無視ー? 寂しいっていうか、横から冷気が来て寒いから説明してほしいんだけど……」

「ザンザスとはどういうことだ、説明しろ」

「異世界にいるとか何とか言ってただろ、どういうことだよ」


 シャルたちの存在を思い出して少し照れた。感動の再会のシーンに観客がいたことに気づいて我に返ったような、この感情をなんと言えば良いのか少し困る。


「ザンザス、金髪少年がシャルナーク、黒髪がクロロ、金髪に眉なしがフィンクスだ。何度か話に出たから分かるだろう?」

「ああ、あれか」

「三人とも、こいつはザンザス。私の友だ」

「マチの大親友だ、カス共、よろしくするつもりはねぇ」


 私の肩に腕を回し、ザンザスは傲岸不遜に言い放った。クロロが憎悪の視線をザンザスに向けているが、仲間を取られたとでも思ったんだろうか……?














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秋ちゃんが読みたいって言ったから必死に書いた。
12/10.2011

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