Pink polaris!5



 ヒラという少年の案内があった次の日、試合を終えて今回得た資金を手にあの路地裏へ向かった。今日は私の観察をしていなかった少年が、路地裏の入り口で仲間らしき子供数人とたむろしている。


「来たんだ」

「うん。オレにはお金が必要だから」

「今は百三十階だろ? 十分あるんじゃないの」

「いくらあっても十分ってわけにはいかないものだからね。オレ一人が使うなら多すぎるけど」

「――お兄さん、雰囲気違うね」

「うん。見に来る? オレの本気、見せてあげるよ」


 ヒラは他の子供たちと視線を交わし、頷くと立ち上がった。


「行くよ」


 そして入ったのはまさに絢爛豪華なカジノそのもの。ドレスを身につけた女が蝶のようにルーレット台やその他の台を飛び回り、恰幅の良い男たちがチップを右から左、左から右へとやり取りしている。


「何をするの?」

「特には。でも頭脳戦なんてオレには無理だから、カンが全てのゲーム一辺倒かもね」

「ラッキーボーイだから?」

「幸運の女神様は前髪しかないんだよ、ヒラ。横をすり抜けようとする女神の前髪をいかにして掴むか――運はオレが掴みとってるのさ」


 ふうん、と鼻を鳴らすヒラを従え、入ってすぐ横のテーブルで資金をチップに変える。ルーレット、カード、その他色々ある、それらの全てを見渡して、感の導くままポーカーの席に向かう。


「カンのゲームなの、それ」

「いいや。でもこれだってオレのカンが告げてるんだ」


 でもここ、舞台が外国の設定なのに何で花札もあるんだろう。不思議だ。作者が日本人だからか、それともジャポニズムの影響かもしれない。


「見ててね」


 こういう戦いは初めてだが、負ける気はしない。


「――ねえ、ワイルドカードの扱いは?」







 サワダの手つきは慣れた人間のそれとは全く違って、カードを一枚めくるのも他の人が笑うような手つきだった。でもボクは笑えなかった。サワダの手元にあるカードが一体どんな意味なのかは知らないけど、何故かそれがすごく強いということだけは分かった。そしてそれは合っていた。


「ファイブ・オブ・ア・カインド」


 にっこり微笑んでサワダが出したのは、同じ数字四枚とジョーカーの組み合わせ。後から知ったんだけど、これが出る確率はロイヤルストレートフラッシュよりも低い。ロイヤルストレートフラッシュを出せる確率は六十四万九千七百四十分の一。それ以下だっていうんだから、物凄くラッキーでないと出せないんじゃないかな、これ。

 騒然となった周囲に柔らかく微笑みを振りまきながらサワダは言った。


「オレの勝ちだね」


 トンボみたいな棒を使ってチップがサワダの前に移される。他の客は、信じられない物を見るような目だった。

 ――サワダが上がる時には、元金の五倍近くまで膨れ上がっていた。強いんだ、サワダって。


「強いんだね、サワダ」

「まあね。でも、もうここには来ない方が良いかも」

「何で?」

「何でって、ねえ、ワイルドカードってオレが言ったのは覚えてる?」


 サワダは突然話題を変えた。確か最初にそれを言ってたはずだけど、それがどうしたんだろう。


「オレはワイルドカードなんだよ。公式ルールじゃない、ローカルルールみたいなものなんだ。あるべき形を歪めてしまう」


 意味が分らない。そう思って見上げればサワダはニコリと微笑んだ。ヒラ、一緒に来ない? と。


「一緒に?」

「うん、一緒に。だって君はオレを知ってるだろ?」


 腰を折って視線を合わせてきたサワダの目は、ボクが観察していた二週間足らずの間には一度も見たことがない程暗く濁っていた。まるで、前に一度だけ見たボスみたいに、ううん、ボスよりももっとほの暗い。


「サワダが来た時のこと?」

「うん。だって君は見てたよね、オレが現れた時を」


 ボクは、サワダが何もない場所から現れたのを見た。だからこそ興味を持って観察したし、その違和感に気が付いた。サワダは嘘を吐いている――騙っている。もしかすると、その存在全てを。


「ねえ、オレの霧にならない……?」


 実体があるようでなく、ないようである、その存在自体が深い霧の向こう。足元さえ見えない濃霧――すぐ身近なのに果てしなく遠いそれ。


「なるなら何をしてくれるの?」


 サワダは目を細めた。


「ここから連れ出して、強くしてあげる」

「なら、行くよ」


 サワダは賭けで稼いだ金でボクを引き取った。

 この日、ボクの日常は一変したんだ。














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霧ゲット?
12/08.2011

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