Pink polaris!4



「凄いぞサワダ、運良いなサワダ、君にはきっと幸運の女神が付いている!」


 放送席の解説者がノリ良くそんなことを言った。

 ――姿を偽り名を偽り、年齢を偽って戦いに身を投じれば、着実に賞金が手に入った。能力を使えば二百階まですぐだろうが、資金調達を目的としているからゆっくり上るのが最善だ。

 今は百二十階、接戦で勝っていたら十階か二十階跳ばしで上ることになった。そろそろ――そうさね、百五十階あたりで負けて落ちた方が良いかもしれない。


「こんなひょろっこい餓鬼に負けるなんざ、今まで当たった奴らは弱かったみてぇだな。だが俺様は違ぇ! 俺様より弱い奴が相手でも全力で倒す! ボコボコの瀕死にされたくなきゃ棄権するんだな!」


 見上げた誇りと言うべきなのか見下げた根性と言うべきなのか、どっちなのかは見れば分かる。この男は後者だろう。口では格好良いことを言っているが、飾られた言葉の中身は「弱者相手でも容赦しない」と言うことだ。


「うわ、サイテーな発言だー!?」


 もう記憶の彼方だけど、たしか綱吉はこんな性格だったはず――盛大にひきつった表情の下でそんなことを考える。綱吉を選んだのは見た目が弱そうであることが大きい。見た目だけで判断するような奴を相手にすれば勝ちやすくなる。またそれとは逆に、見た目が弱々しいから「負けても仕方ない」と思わせるため。勝っても負けてもおかしくない見た目として最高だったのだ。


「んだとテメェ、ぶっ殺すぞ!」

「ひぃぃぃ!」


 コート上を走り回って逃げ、いつものように相手の隙を誘って「ラッキー勝利」に見える形で勝利をもぎ取る。そのせいか私についたあだ名は「ラッキーボーイ」「その運が憎い」「運しか持ってない」だ。女性の観客はひ弱な少年が頑張る姿が可愛く見えるらしく応援してくれるが、男性諸兄からは非難轟々だ。実力が不足してるくせに、と。そう勘違いしてくれてとても有難い。


「次は百三十階ですね。サワダ君頑張ってね」


 女性の審判が私の頭を撫でて言った。おどおどとして見えるように挙動不審気味に体を揺らしながら「はい」と頷けば、審判は私の目の前だということも忘れたらしく「可愛い」と叫びながらガッツポーズをしていた。

 賞金受取所でケタがおかしい賞金を受け取り、幻術でごまかして開設した通帳にそれを突っ込む。まだ百二十階を過ぎたところだというのに一億が貯まったというのは一体どういうことだろうか。

 通帳を見ながらこの金額で一体何人の流星街の人間が救えるだろうかと考え、暗算すればすぐに尽きることが分かった。たった一人で全員が救えるとは思わないが、せめて子供の食事を少し増やせないものか。

 ところで、発展途上国では非営利団体や先進諸国の支援による子供への学校給食や炊き出しがある。結果どうなるかと言えば、その国の人口ばかり増え食糧不足が増大するのだ。何故なら、大人は多くの子を産むが病死等で今までは人口調整がされていた。が、薬の発達によりそれが減った。右肩上がりに増加する人口、追いつくはずがない食料生産量。他国が支援できるものも限りがあり、結果彼らを待つのは飢餓だ。――それを知ってはいるが、せめて私と関わりのある彼らにはお腹いっぱい食べさせてやりたいと思う。


「お兄さん、毎回通帳見てはため息付いてるよね」


 突然赤毛の少年が声をかけてきた。


「稼ぎたいの? 教えてあげようか、すぐに稼げる方法」


 まじまじと見れば彼――八歳かそこらか――はニコニコと人好きのしそうな笑みを浮かべていた。切れ長の大きな瞳、薄くも厚くもない唇はどこか狡猾さを伺わせる。


「君は……?」

「おっとごめんね。ボクはヒラ。あのね、お兄さんが毎日ため息吐いてるの見てたんだ」

「み、見られてたの!?」

「うん!」


 大げさに驚いたふりをしたけど、この少年が私を最初から観察していたことは知っていた。悪意あるものなのか判断しかねたから放置していたけど、向こうから接触してきたならこっちのものだ。巻き込むも放置するも、見てから判断した方が良い。


「オレは――」

「知ってるよ、サワダでしょ? お兄さん最近ラッキーボーイで知られてるもんね」

「うん。でね、あの……えっと。その、稼ぐ方法って?」


 ヒラという少年は何を目的として接触してきたのだろうか。何かの末端かもしれないし、彼が一人で行動してのことかもしれない。後者のような気がするが。


「ここじゃ教えられないよ。こっちへ来てよ」


 手招きされ、私は通帳を鞄に仕舞ってその背を追いかけた。闘技場を出て、怪しい路地裏の入り口へ。


「お兄さんしたことある? カ・ケ・ゴ・ト。この先へ行けばその会場があるんだ」

「君は、その、案内人?」

「正解! 良い鴨を見つけて、呼び寄せる誘蛾灯みたいなものだよ」


 あっさりとバラしたヒラに疑念が浮かぶ。


「どうしてそんなに簡単にバラしたの? オレが警察に言わないなんて確信でもあったの?」

「ハハ、まさか! ボクはそんな綱渡りしないさ。お兄さんなら黙ってるさ、そうだろ? ボクはいかにも弱そうな鴨を連れていった。ボクはきっと褒められるだろうね。今日の晩ご飯は豪華かもしれない。お兄さんは簡単に稼げる場所を知った。もし勝てばお兄さんはお金を手に入れられる。悪くない条件だろ?」


 超直感のある私にはこれ以上ない好条件。だけど私が勝ち続ければ、この少年は殴られるだろう。――いや、殴られるだけでは済まないかもしれない。殺される可能性もある。もし殺されるなら、私が……


「じゃあ今日は、顔出しだけ」

「へぇ、意外と堅実なんだね」

「ほんとに堅実な人間なら天空闘技場なんて来ないよ」

「フフフ……言えてるね」


 ヒラに案内されるまま、私は裏の世界に足を踏み入れた。――この世界でも結局、裏の人間は裏の人間なのだと、私の耳元で誰かが囁いたような気がした。














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オリキャラじゃないよ!
12/08.2011

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