Pink polaris!3



 握手をしたものの、なんだか気恥ずかしくなって視線を逸らす。どうやらクロロも同じ心境だったらしくクロロも視線をうろうろと他方へやった。偶然視線が合うとバッと音を立てて顔を逸らすクロロを見ていると、なんだか心が温まるような気持ちになる。復活世界で擦り切れた心が、復活世界よりも残酷なハンター世界で癒されるとは。なんとも奇妙な話だがそういうものなんだろう。

 と、この小屋に向かってくる小さな気配があった。


「クロロただいま」


 内心首を傾げながら待てば、そういう関係だからかノックなしに入ってきたのは金髪の少女だった。見た目年齢で言えば私よりも年上、十歳くらいに見える。――クロロを見たときにも思ったが、二人とも痩せているな。食料が足りないのか、それとも病気か……不衛生な場所だから体内に悪玉の寄生虫がいてもおかしくはない。

 そして彼女は私の姿を認めるやちょっと腫れぼったそうな目を見開いて動きを止めた。え、私は何かしたか?


「貴方起きたの!? えっとね、私はパク! パクノダって言うのよ。貴方は?」

「マ、マチだ」


 まるでマシンガンのようにこちらに口を挟ませることなく言い切った彼女はパクノダ。クロロにパクノダ、うん、幻影旅団初期メンバーだ。そして私の名前はマチ――原作に描かれていた彼女の鋭い直感は超直感だったのか、それとも彼女の位置に私が成り代わったのか? きっと後者だろう、そんな確信がある。


「マチね。どうして貴方、おじいちゃんの小屋の前で――」

「パク、それは後でオレが説明する。先ずはマチの飯だ。オレもここで食べるからもらってきてくれるか?」

「あ、そうね。分かったわ。ちょっと待っててね!」


 繰り返しの説明になりかけたのを、クロロがパクを制してくれたおかげで苦い思いを繰り返し話すことなく済んだ。どうやらパクも幼い時分には可愛い面があったようだ。はしゃぐように飛び跳ねながら出ていった背中を見送る。


「もし自分で話したくなったら言ってくれ。教えてくれる日が来るのを信じてる」

「クロロ……有り難う」


 まだ十歳くらいだろう彼にそこまでの気遣いができることが目新しくも悲しくて、笑顔を浮かべるのもなんだかおかしい気がして真剣な顔で頷く。


「気にするな。すぐに打ち解けろと言ってるわけじゃない」


 クロロはクシャリと私の頭を撫でた。ヴァリアーは暗殺部隊であることから、香り付きのシャンプーやリンスは避けている。細かく言うと暗殺者じゃない私や髪の量が多くて頭が蒸れやすいスクアーロが無臭のシャンプーを使うと、頭が蒸れた臭いがどうしても取れない。だから私たちだけは微香性のものを使っている。――二日寝ていたというし、頭が臭くなってるんじゃないか不安だ。


「頭を撫でられるのは苦手だったか、すまない」

「いや! 違う! 少し頭を洗ってないことが気になっただけだ、気にしないでくれ」


 私が少し背中を反らしたからだろう、クロロは困ったような顔で手を引っ込めた。


「なんだ。それなら気にするな。そこらへんの壁を触る方がマチの頭よりも汚い」

「それは酷いフォローさね!」


 全く酷い言いようだが、その通りなんだろう、クロロは真面目な顔をしている。つい笑い声を上げてしまった。


「ご飯もらってきたわよ!」


 クツクツと笑いをかみ殺しきれない私と、流石に酷い表現だったと気づいたのか視線を斜め横にずらしているクロロを見て目を丸くするパク。


「どうしたの二人とも」

「いや、何でもない。そのポリッジはマチの分か?」

「うん。こっちがクロロね」


 パクが持ってきたのはミルク粥、パン、スープ、肉が二切れ乗った皿だった。どう見てもこの年齢の子供には量が足りない。ミルク粥を足してやっと一度の食事と言えるレベルだ。


「はい、どうぞ!」

「あ、ああ。有り難う」


 しかしクロロは別に驚いた様子もないし、これがいつものことなのだと分かる。病気ではなく食糧不足か……。それなら私がなんとかできるな。

 ミルク粥は水で薄めてあるうえ米の量も少なかったが、空腹な私にはなにより美味しく感じられた。もっとあればとちらりと思い、すぐにその考えを否定する。今の彼らにできる最良のことをしてくれたのだ、欲を言うものじゃない。

 最後の一滴まで飲み干した私にパクがクスクスと笑い声をあげた。


「本当にお腹が減ってたのね!」

「ああ、二日絶食したことになるからな。胃が騒いでしょうがなかったよ」

「食べられることは良いことよ。元気になって、それで一緒に遊ぶの」

「うん」


 そういえば私には同年代の友人がいないことに気が付いた。今まで五歳以上年上の者達の中でずっと過ごしていたから最近の子供が好む遊びが分からない、まあ、復活世界とハンター世界では色々と違うだろうから知っていても意味がないか。チェス、将棋、囲碁なら趣味の範囲内でできるんだがな……。


「二日も寝ていたんだ、まだ体は本調子じゃないだろう。寝てろ」


 クロロはポリッジの入っていた皿を私の手から取り上げると、肩に手をかけて軽く押した。堅いベッドにボスンと倒れる。クロロの言う通りまだまだ本調子には程遠いようだ。だがそれが幻術に影響するかと言えば否。ものを考えられる頭と豊かな想像力さえあれば十分なのだ。私は眠るように目をつぶり意識を集中――する前に、目を開けてクロロを見た。


「おやすみ」

「ああ、おやすみ」


 今度こそ目を閉じ、思考を鳥に変えて飛ばした。目指すは天空闘技場、手っとり早く金を稼げる場所だ。








 雲の増殖を使って方々探せば、三百キロほど離れた街に天空闘技場が、また二百キロ弱ほど離れた場所にククルーマウンテンがあるのを見つけた。ククルーマウンテンの上を旋回して観察していれば下から龍が襲いかかってきた。


「ピ――ッ!!」


 こちらが探知される前にその個体は消した。堂々としすぎたらしい。

 天空闘技場を見つけた個体以外は全て消し、闘技場の前で実体化した。


「へぇ……」


 なにもない場所から現れた私に気が付いたのは、たった一人。














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 ポメラ(執筆用持ち運びメモ帳)に眠ってた。存在忘れてたぜ……
12/06.2011

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