聖女兄日記



 ロードの兄こと、初代ゾルディック家当主の物語――実はこの時点でまだ兄の名前が決まっていない。見切り発車だよ!











 僕は今、腕の中にいる愛妹の小さな重みに浸っていた。ここまでくるのに何年もかかった……やっと妹を、ロードを助け出すことができた。

 思えばロードが生まれてからもう十五年も過ぎているんだ、長く感じられるのも当然。――自然と、この十五年が思い返される。





 父上が再婚したのは僕が十一になってすぐのことだった。母上がお亡くなりになったばかりだというのに早々に若い愛人を正妻にした父上に少し失望しつつも、マフィアのボスという立場上仕方ないということも分かっていたから文句を言うつもりはなかった。だけどもし父上が後妻可愛さに僕を追い出したりしたらと思うと、後妻が自分の子供を次期ボスにしようと僕を疎んでいたらと思うと怖かった。

 誰よりも強かった母上。至近距離で撃たれた弾さえも避けて敵に突撃していた母上。どういう進化なのかは知らないが硬化させた手で敵を刺殺していった母上。――ああ母上、何故お亡くなりになったんですか。千人の敵共々爆死なんて、どれが貴方の骨も分からない。

 母上の死と自身の闇色の未来に嘆いていた僕に妹ができたのは、僕が十二歳の時だ。これで僕のお役目も返上。切り捨てられる最後だろうと思いこんでいた僕は、妹・ロードの存在を恨めしく思っていた。生意気そうな猫目に黒髪、これの母親とそっくりだ。

 だけど悲壮な覚悟をしていた僕に対し、周囲は全く変わらなかった。相変わらず後継者は僕だし、父上も僕を厭う様子がなかった。――僕の勘違いだったのだ。


「ロード、君のお兄ちゃんだよ。分かるかなぁ……」


 僕は構うつもりのなかったロードに会いに行くことにした。もう人見知りは始まっているだろうか? ロードに嫌がられたら僕は泣いてしまうかもしれない。

 だけどロードが浮かべたのはふにゃふにゃした可愛い笑顔だった。心臓に矢が突き立ったような感覚がした。ドクドクと脈が耳にうるさい。僕の小指でも握れないくらいの小さな手にときめき、無邪気で無垢な笑顔に祈りを捧げたくなった。この子は天使だ!

 それからの僕はこの天使の微笑みを守るためになら何でもできた。十五歳の時に敵対マフィアと戦っている時に突然体から白いもやがあがって不気味だったけど、家に帰ったらロードが吸着というものを教えてくれた。すると身体能力が数倍に跳ね上がったうえ、その念という能力を伸ばせば更に色々なことができるのだと知った。そしてロードが「ゾルディックという格好良い暗殺者の名前を本で読んだ」と言ったのを聞いて、格好良いと言って欲しくて名字をそれに変えたら、ロードは天使の微笑みを浮かべて「お兄様格好良いね」と言ってくれた。

 僕が十九歳になる頃、ロードを政略結婚で他のファミリーに嫁がせるとかいう話を耳にした。僕の天使を他人の嫁になんかやるつもりはない。もしロードが欲しいならこの僕を倒してからにするんだね! という内容のことを宣言したら父上が無茶を言うなと言ってきた。父上も何をとち狂ったことを言うのやら……僕に勝てないような奴のところなんて安心できないじゃないか、いや、マフィアの嫁にすること事態が間違ってる。もっと安全で安心なところに嫁に行かせるんじゃなきゃ安心できない。ずっと僕と一緒にいたら嫁に行く必要ないよね。よし、ロードは僕のお嫁さんにしよう。

 父上が強硬に反対したので半殺しにして逃げた。待っててねロード、お兄ちゃんが安全な場所を作ってあげるから、それまで良い子にしてるんだよ?






 それから僕は仲間を見つけ自警団を作り上げ、パンジーと運命の出会いをしたりタダオを拾ったりククルーマウンテンに居を移したりと忙しい十年弱を過ごした。その間にロードが治癒の力に目覚めたことや肌の色が変わったことを伝え聞いた。そして、父上と後妻がロードを利用していることも。


「僕は無力だ」


 ロードを助け出すことは可能だけどそれでは総力戦になる。僕がまとめている集団とはいえ、妹のためだけに幾多の命を散らすわけには行かない。ロードのために立ち上げた集団が逆に僕自身の足を引っ張るとは思いもしなかった。

 机を殴ってどうしようもない怒りに身悶えていた僕に、パンジーが素晴らしい案を出してくれた。パンジーが昔聞いた噂だというが、物に異能を持たせることができる職人がいるらしいのだという。その人に頼めば兄から妹へのプレゼントという名目で直通の連絡手段ないしは秘密の救出手段を渡すことができるだろう。僕はその案に飛びついた。この他に良い案がなかった。

 そうしてプレゼントを送ってから一年何もなく、異能が機能していないのじゃないかとかとても気を揉んだ。実際はプレゼントの安楽椅子に座った状態で僕の名前を呼ぶような機会がなかったかららしいけど、当時の僕らにそれを知る術なんてあるわけがない。そして一年が過ぎたある日やっと異能が発動し、ロードと十一年ぶりの再会を果たしたってわけさ。

 ロードはほとんどが記憶のままだった。当然だ。僕が家を出たのはロードが八歳の時で、そしてロードは九歳で成長が止まっている。多少肌の色が変わった程度の違いだけしかないことに改めて愕然とした。ロードは時間に取り残されてしまった。だが僕はそんな考えはおくびにも出さずロードを抱き上げ歓迎の言葉を言う。思ったとしてもそんなこと言ってどうなる、ロードを不安にさせるだけじゃないか。

 人外だというタダオとレーコさんの娘と会わせるべきか……なら、ロードの警護にはタダオに付いてもらおう。

 頭の中でそんな計算をしながら、ロードを抱いて部屋を出た。すれ違う人間の一体何人が、ロードの実年齢を分かり得るだろう? 切なさが胸を何度もつついた。














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 名前どうしよう。
12/01.2011

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