Pink polaris!2



 じいさんの小屋の前で倒れていた北極星――女の子が目覚めたのはまるまる二日後。息はしてるけど顔色は悪いし、本当に生きているのか不安になりかけた頃だった。パクに看病を手伝ってもらいながらも主に働くのはオレ――彼女を見つけたのはオレだからな。


「ここ、は……」

「起きたか!」


 パクが昼飯を食べに行った扉の音で起きたようだ。目を瞬かせながら女の子はもぞりと動き、布団をはがして起き上がる。起き上がって大丈夫なのか?


「お前はじいさんの小屋の前で倒れていたんだ。記憶はあるか?」

「いや、ない。私は……いや、ここはどこだ?」

「ヨルビアン大陸東部にある流星街だ。お前はどこから来たんだ」

「ヨルビアン? どこだそれは。いや、ヨルビアン、ヨルビアン……」


 ベッドの縁に腰掛けた彼女は地名に聞き覚えがないのか額に手を当てて考え込んだ。オレたちでも知っている地名を知らないのは変だが、もしかすると地名なんて覚えなくて良い身分というのがあるのかもしれない。あのコートと靴を昼間によくよく見てみたが、かなり立派で金になるものだったから。


「どうやら私は帰る場所を無くしたらしいね……この場合はどうすれば良い? ここに受け入れてもらえるだろうか」


 彼女は難しい顔をしてオレにそう言ってきた。帰る場所を無くすとはどういうことだろうか……抗争でファミリーが壊滅したマフィアとかかもしれない。オレとそう年齢の変わらない子供もマフィアの一員なのかと思うと怖くなるが。


「流星街は何でも受け入れる。周囲に顔見せさえすれば北極星もすぐに受け入れられるだろう」


 それがここのルールだからな。


「北極星――私のことか?」


 と、彼女が首を傾げて訊ねてきた。そういえば勝手に北極星と呼んでいるだけだったと思い出す。


「そうだ。何と呼べば良いか分からなかったから、寝言で繰り返していた北極星と呼んでいた。お前の名前は何だ?」

「すまない、先ず自己紹介をするべきさね。私はマチ。とある暗殺部隊の一構成員だったが、今はただの根無し草さ」

「暗殺部隊……」


 こんな子供でも暗殺に関わるのか、外の世界では。思わず顔をしかめればマチは勘違いしたのか声の力をなくした。


「あ……そうだな、危険人物と一緒にいたいとは思わないか。ならせめてマフィアに紹介してくれるだけで良い。流星街は確かマフィアとつなが――」

「違う!」


 オレは慌てて否定した。一緒に頭も横に振り表現する。出て行って欲しい訳じゃない、オレは、そう、出て行って欲しくなんてない!


「マチはまだ六歳かそこらだろう。なのに暗殺部隊の人間だったのかと思っただけだ!」

「ああ、ただ関係者の娘だったからね。勘違いしてすまない。ところであんたの名前を聞いても良いかい?」

「あ……忘れていたな。オレはクロロ。世界の財宝を全て目にすることになる男だ」


 興奮して赤い頬のまま、オレは胸を張って答えた。

 オレはこんな狭い世界でじっとしていられるような小心者じゃない。オレは世界に出て、この世の全ての宝をこの目に映すという夢があるんだ。オレは飽き症だから全部を手に入れるなんて面倒なことをするつもりはないが、一度は必ず手にとって飽きるまで見る。必ずだ。


「全ての財宝を見るか……面白いね」


 マチはふわりと微笑んだ。まるで年上が年下を愛でるような笑みに見えた。


「私の夢はちょっと前に叶ったばかりでね、それは私一人の力では叶えられないようなものだったんだ。だが心強い味方が何人もいてくれたお陰でどうにかできた。クロロにはこうして看病してもらった恩がある。もしあんたが望むなら、私はあんたの夢を叶える手伝いをしたい」


 マチの手がオレのそれを包み込む。下から見上げられてどきりとする――まるで、本で読んだ騎士の誓いのようだ。


「マチを助けたのは、オレだ」

「ああ、そうさね」

「マチを看病したのも、オレだ」

「そうさね」

「だからマチ、オレの夢を手伝え」

「分かった。私は全身全霊であんたの、クロロの夢を叶える手伝いをしよう。私の名前にかけて誓う」


 何故か、マチの目がオレを通して他の誰かを見ているように思えた。話に出た暗殺部隊の仲間だろうか? だがそんなことは今のオレにはどうでも良かった。マチは名にかけてオレに従うと誓ったのだから。

 もしかしたらその相手は、寝ている間に彼女が何度も口にしていたザンザスという名前の者なのかもしれない。けれど今マチの側にいるのはオレであってザンザスではない。


「今日この時から、お前はオレの仲間だ」


 膜を突き破り産声を上げた蜘蛛には、まだ一本しか足がない。だがその蜘蛛は成長するうちに足を増やしていくだろう。――蜘蛛はまだ生まれたばかり。














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ご都合主義が含まれます、と注意書きを入れた方が良いだろうか?
11/29.2011

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