なのな!?〜オレのハニーはいわし系・前〜



 昨晩はいつものようにローンディネを抱き込んで寝たんだが、今日に限っては妙な生臭さを感じて起きたぁ。魚みてぇな磯臭ぇ独特の臭い……誰かが魚でも持ってきたかぁ?

 今日は久しぶりに二人とも一日フリーで、義父さんに結婚の許可を貰うため挨拶に行く予定だからな――そろそろ起きるかぁ。そう思って薄目を開けたオレはその瞬間噴いた。


「ろ、ろろ、ろろろろろローンディネ!?」


 オレが抱き締めていたヤツは首から下は見慣れた肌色の肢体をしていて、オレが昨晩つけたキスマークが色っぽい。――が、だぁ。切るのが面倒だと言って少し長めな黒髪と幼い造作があるはずの頭は、そう、鰯になってやがった。訳が分からねぇ!! 何故鰯なんだぁ!? エラがぴくぴく動いているとか開きっぱなしの目だとか半開きの口から覗くギザギザの歯がだとか、それも恐怖を感じる要素だが、なにより人の頭を腹に収められるデカさなのが恐い。サーモン並みじゃねぇかぁ、これ。これはマーモンの仕業だよなぁ? うお゛お゛ぉい、誰かそうだと言え!


「んー、スペルビ煩い……昨日何時まで起きてたと思うんだよー」


 ローンディネの首から下の体とローンディネの声をした怪物が起き上がったぁ。眠いからか目元を擦りながら。感情の見えない目がスゲー恐え。……やけに艶々した鱗が光を反射して眩しいぞぉ。


「おはよ、どーしたんだよスペルビ? 変な顔してるぜ」

「まぁなぁ……理由は鏡を見りゃ分かるぜぇ」


 巨大鰯に頭を侵食されたローンディネをベッドから洗面所へ送る。あいつの声を聞いて頭が冴えたぜぇ、あの姿はなかなか攻撃的っつーか衝撃的だぁ。一瞬の隙を生むどころか、暫く衝撃から帰ってこれねぇ。今度マーモンにさせてみるかぁ?


「鰯――ッ!?」


 予想通りの叫び声が聞こえ、陶器やなんやの落ちる音が響いた。普段の落ち着きのある足音など忘れたみてぇにどたばたと駆けてきたローンディネを迎えれば、鰯な頭を両手で押さえつつ左右に振りながら駆け寄ってきたぁ。尾が釣られて振れ、ビチンビチンと音をたてている。――これは、アレかぁ……オレの愛が試されているのか!! う゛お゛お゛ぉい! 誰がこんな悪質な悪戯仕掛けやがったのかは知らねぇが、オレはローンディネを顔で好きになったわけじゃねぇ! オレはコイツの内面に惚れたんだぁ! だからコイツの頭部が鰯になろうが鶏になろうが愛してみせるぜ……畜生、怪物にしか見えねぇぞぉぉぉぉ!


「スペルビぃ!」

「ろっ……ローンディネ!!」


 コイツはローンディネだぁ、オレには分かる!! そして犯人は見つけ次第三枚に下ろすと今決めたぁ!

 抱きついてくるローンディネの頭に触れないように抱き返せば、潤んだ魚の目がオレを見上げた。


「どうしよう、オレ、鰯になっちまった!!」

「ローンディネ……」


 なんて声をかければ良いのか分からねぇ。言葉に詰まったオレにすがり付き、ローンディネは口を開いた。ギザギザの歯が暴力的だなぁ……うん。


「オレ、オレッ……! どうしよう、こんなんじゃ親父に会えない!」


 そうだった、今日は挨拶に行くつもりだったからなぁ。他人に見られれば怪物として駆除されるに違いねぇこの姿でうろつくのは自殺行為だ。頷いているオレに対し、ローンディネはしかしオレの予想とは全く違う理由を言った。


「こんな姿を親父が見たら、オレ、刺身にされる!!」


 ……まじか?








+++++++++
 楽しく書いた。前後編か前中後かかなー(´ω`)
2011/11/14


- 222/511 -
*前目次次#

レビュー・0件


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -