いらっしゃいませー18
アーカードが指を組み、背もたれに体を預けて笑んだ。
「貴様らは俺に助力を求めている、そうだな?」
「その通りだよ」
恭弥が横で嫌そうにふて腐れているのをまあまあと宥めすかしつつ作った交渉のテーブルは、これといった問題もなく進んだ。そんな中、アーカードが今更なことを口にした。――これは何かあるなぁ。報酬かな?
「ならばそれ相応の見返りがあってしかるべきだと思わんか」
「私にできる最大限のことをするよぉ」
「ふむ、言質はとった。その言葉を撤回することがないよう祈る」
アーカードはもったいぶったように数瞬の間を置いた。
「貴様の血を――そうだな、二百ほど頂こう」
「あ、そんなことか。直接じゃなければ良いよ」
「夏輝!?」
「ちょっとしたダイエットだって思えば良いんだよぉ、恭弥」
恭弥が声を荒げるけど、たかだか二百ミリリットル程度なんて献血と似たようなものだし、気にするほどのことでもない。まさか単位がオンスでもあるまいしねぇ。
「単位はミリリットルだよね?」
「もちろんだ。俺も鬼ではない」
「夏輝――」
「今までの方がおかしかったんだよぉ、恭弥。料理でどうにかなる方がおかしいの」
男を墜としたければ胃袋を掴め! って言うけど、それは男女の話。トリコは美食に対して貪欲で、フェリスはだんごに目がない。ライナはフェリスに脅されて仕方なくだから除外して、キルアは無類のお菓子好きかつ自分の能力に自信があるから断らなかった。でもアーカードは? 吸血鬼が何を求めるかを考えれば答えは明らかだよねぇ――血だ。眉間にしわを寄せながら見つめてくる恭弥に肩を竦める。
「え、君は料理できるの? こんなにちっちゃいのに?!」
「ちっちゃいは余計! 私、これでも十二歳なんだからぁ!」
セラスちゃんが目を見開く。失礼な、これでも私は料理上手なんだからね!
「見えない……」
「クックックック……婦警、姿かたちに惑わされるからそうなるのだ。俺の年齢を知れば貴様も顎が外れることだろう」
アーカードは少なくとも、ロングヘアの美少女――これが流行りの男の娘っていうものかな――、普段の青年、そして髭面もダンディーな中年の姿の三つを持ってる。見た目が変わる人だからこそ、私とも対等に話してくれたのかもしれないなぁ。
「はぁ……」
セラスちゃんは納得できてないような顔でそう零し、恭弥は苛々した様子を隠そうともしないでアーカードを睨み付けている。こらやめなさい。
「胃袋で他の者の協力を得てきたようだが、その味というのが気になる。一体どのようなものなのか一度食ってみたいものだな」
アーカードは楽しそうに言った。――その、目の前で手を付けられることなくお皿に乗ったままのケーキこそが、私の手作りなんだと言おうか言うまいか。
「君、バカ? そのケーキは誰が出したのさ」
「恭弥……」
君、アーカードが嫌いなんだねぇ! 一応仲間としてリング戦を戦ってもらわなきゃいけないんだけど大丈夫だろうか?
「ほお、これが」
「お店のかと思ってました」
セラスちゃんもまだ食べてないのはやっぱり、アーカードが止めたからだろうなぁ。私たちってば物凄く不審だし。
「では失礼して頂きまーす!」
「俺はあまり甘いものが好きではないのだが――頂こうか」
「一言余計だよぉ」
私たちにとっては普段から食べ慣れた味。でも二人には――
「甘さ控えめでミルク独特の香りが強いわね……スポンジもやわらかいのにシャンとしてて崩れないし。凄い、こんなケーキがあるなんて……!」
「この程度の甘さなら食えないこともないな」
日本ではその程度の甘さが普通ですから、とは言えないくらい感動しているセラスちゃん。ヨーロッパのお菓子作りの本を買うと、砂糖の使用量に目を剥くことが良くある。なんでチョコチップクッキーにそんなに砂糖を入れるのか、その半分でも十分じゃないのか――外国のお菓子って、どうしてあんなに甘いのかなぁ?
対してアーカードは目を輝かせることも笑みを浮かべることもなく、紅茶で一息つきながらもゆっくりと食べてる。
「――まあ、このケーキならインテグラを納得させられるだろう。説得をせいぜい頑張ることだな」
アーカードはフォークを置くと口元をぬぐってそう言った。
「は、はあああああああああ!?」
この男、漫画でもそうだったけど超性悪!
インテグラさんからの許可はもちろん下りました。下させたともいう。――なんていうか、もうリング戦までアーカードには会いたくないよぉ……。
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久しぶりだ……。どれを書けばよいのか、本当に頭が働かない。マクロスFに今更嵌りかけながらヒイハア言って書いた。どうしようテンションが戻らない。 05/10.2011
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