M家の小人



 僕は泣きわめきたいのを我慢して唇を噛んだ。やっぱりこれは自業自得、なのかな。


「ぐすん……」


 僕が生まれたのは小人の国で、でも外界から隔離されていたから自分が小人だなんて全く思っていなかった。たった七百人足らずの小さな国は僕にはどうも狭く感じられ、ある日そこを飛び出したんだ。

 近づいてはいけないと言い含められていた蔦の壁を叩き、開いた扉から外へ出た――そして先ず知ったのは僕が小人と呼ばれる種族であること。屋敷しもべ妖精なんていう僕の倍もある身長の小人もいれば、僕の半分の身長しかないフェアリーもいる。僕の身長はニンゲンでいうとおよそ十一インチで、気づかれずに蹴られるサイズだ。

 ニンゲンは怖い。蹴られるっていうのもあるけど、僕の種族は珍しいのかみんなが追いかけてきて僕を捕まえようとする。黒くて細長い箱を持ったニンゲンの男たちと先端に丸いモケモケを付けた短い棒を持った女たちが、魔法も使わないのにピカピカと僕に光線を放ってくるのだ。

 家の下に潜り込んで隠れて、疲れのあまりストンと寝てしまったのが悪いんだろうか? 今の僕は籠の中に入れられ、ジロジロと眺め回されている。よく分からないことを騒いでいる彼らに泣きそうになる。研究だとか、よい実験体だとか。分からない――僕は何をされるんだろうか?

 籠の中に敷かれたクッションを頭にかぶって震えていたら、突然周囲が静かになった。クッションをどけて周囲を見回せばローブを着た老人が入口に立っていて、ゆっくりと歩いてくる。


「おお、怖かったな。マグルに捕まるとは……もう大丈夫じゃ、ワシは魔法省の役人じゃ」


 魔法省、聞いたことがある気がする。外の世界にいる魔法族はみんなそこと大なり小なりかかわりを持っていて、でも僕たちみたいに隠れて暮らしている種族は全く関わり合いにならないだろう機関……だったかな。


「保護者も見つけねばな」


 僕は籠から取り出され、姿くらましでその場から消えた。










 坊ちゃんの学校についていくと言い出したのは僕自身だ。ダームストラングに入れたがる旦那様に奥様は強硬に反対なさり、同じ国内にいないなど安心できないという意見を通され――結果的に坊ちゃんの入学先はホグワーツに決まった。僕は奥様を安心させたいがため、また坊ちゃんをそばでお守りせんがため旦那様に随行を申し出た。慣れない環境に一人放り出されるなんて坊ちゃんが可哀想だ。これでも僕は十歳で、坊ちゃんよりは大人としての判断ができると思うし――僕の種族では成人は九歳なのだ。

 魔法省に保護された後、僕の引き取り手を探すことになった。も九歳だったとはいえ僕はニンゲン世界ではまだ未成年で、誰かの保護下にいなければならないと判断されたためだ。そして出会ったのが旦那様につれられた坊ちゃんで、坊ちゃんのおかげで僕は家出以前よりも悠悠自適とした生活を送らせてもらえている。坊ちゃんは僕の恩人なのだ。


「××、僕はちゃんとスリザリンに入れるだろうか? 入寮テストなんてあったら……」

「大丈夫ですよ、坊ちゃんはスリザリンに間違いなく入れますとも。新入生の誰よりもスリザリンに相応しいのですから」

「そ、そうか?」

「もちろん!」


 入学式前夜、不安に顔を青ざめる坊ちゃんの手をなでる。僕は坊ちゃんの膝の上に立っているというのに、坊ちゃんの頭まで手が届かない。


「××、お前はずっと僕の味方だよな」

「ええ、ずっと僕は坊ちゃんの味方ですよ」


 僕は胸を張って答えた。女顔の僕がしても恰好がつかないけどニヤリと笑む。坊ちゃんも顔を綻ばせた。


「お前がついてきてくれて嬉しい」

「そう言って頂けると僕もついてきた甲斐がありますね」


 坊ちゃんは僕を抱き上げ膝の上に座らせると、僕の三つ編みを解いて手櫛ですき始めた。小さいからだに比例してニンゲンのそれの何倍も細い髪は手触りが良いらしく、僕の髪は坊ちゃんのお気に入りの一つである。


「猫なんて飼う奴の気がしれないな。××のほうがもっともっとサラサラできれいな毛をしているし、××は友達になれるし」


 坊ちゃんは僕の夕日色の髪の手触りを楽しんでいるようだ。独り言のようだから返事はせずにされるがままになる。


「大好きだ、××」

「僕もドラコ様が大好きですよ」


 坊ちゃんが翡翠の欠片みたいだと言ってくれる目を細めて言った。僕は一生、坊ちゃんにお仕えしていくんだろうなとどこかで思いながら。














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 ネタもどきに載せた小人主。気づかずに蹴られるサイズ。友情夢ですよ?
2011.05/03

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