ウォンカ!



 ウォンカのチョコレートは世界一!――そんなフレーズで登場したチョコレートは、その言葉に違わず瞬く間に売れた。ふんわりと口の中でとろけるそのチョコレートに目から鱗が落ちたという方も多いことだろう。何故ならウォンカのチョコレートは画期的で、新鮮で、我々のお菓子に対する概念というものをガラリと変えてくれたのだから。

 それまでのお菓子と言うものはあくまで空腹の足しであり、茶請けのスコーンにブルーベリージャムといったものだけだった。しかしウォンカのお菓子はどうだろう。一年毎日舐めてもなくならない飴”ガブストッパー”、大人一人が入れるほど膨らむガム“スラグワース”、常温でも溶けないアイス“フィクルグルーバー”等。これらは全国の子供たちを虜にし、また、子供だけではなく大人までもがお菓子の奴隷と化した――ウォンカの代名詞とも言えるチョコレートで。ウォンカ・バーはライトチョコ、ブラックチョコ、ストロベリー・フレーバーの三種類のみだというのに、我々の心を捉えて離さない…………

 新聞をテーブルに放り、ティーカップを人差し指にかけて持ち上げる。一口飲んで足を組み直した。


「どこもかしこも似たようなほめ言葉しか書かないのね」


 貴社の記事を書きました! と新聞社から連絡があったから読んでみたけど、以前にも読んだような内容に似たりよったりの文面、私からすれば当然のことをさも驚くべき事実であるかのように書く記者の文章にはもう飽き飽きした。

 どうしてかしら、最近とってもつまらないのよね。お菓子作りに飽きたってわけじゃないのよ、でも――刺激がない日々にダレてきたみたい。


「そうだわ、ハンター試験でも受けようかしら」


 頻繁に受験しないかって電話が来ることだし、暇ないま受けようか、どうしようか。


「とりあえず電話ね――あ、か、さ、た、な……ネテロ」


 携帯でネテロ会長につなげ、2コール待つ。


「Hi、ネテロ」

「久しぶりじゃな、リリー。何か用かの?」

「あら、用事がなくちゃ電話しちゃいけないのかしら?――But、用事がないと電話した試しがない私が言うのも何よね」

「ふぉっふぉっふぉ、その通りじゃて。――で、何用じゃ?」


 ネテロ会長が声色を変えた。私は普段通りに話す。


「ハンター試験、受けようって思って」

「ふぉ!?」

「あら、What come?」


 ネテロ会長が声を裏返したのに首を傾げる。一体どうしたのかしら?


「ああ、リリー。あと一日早かったら良かったのじゃが……ハンター試験は今日からじゃ。とっくに始まっとる」

「あら」


 なら来年? でもそんなに待てないわ。だって私は「今」暇なのだもの。


「ねえ、どうせ一次試験はeasyでしょう? 二次試験からでも受けちゃだめなの?」

「ううむ……仕方がないのう、二次試験から受けられるように連れてっちゃるからすぐにわしんところに来なさい。ウンパ・ルンパも一人だけなら連れてくるのを認めよう」

「気前が良いのねネテロ。いますぐ用意するわ。十分後に会いましょう」


 通話を切りポケットに携帯を突っ込む。そして今私のいる――社長室から全館放送をかける。


「チャーリー、チャーリー! 出かけるわ、いますぐ社長室に来て! みんなも私たちはしばらく工場をあけるけど、侵入者は普段通りダストシュートに入れるのよ!」


 着替えの服一着とお菓子を鞄に詰め、ちょうど用意が終わった時に社長室の扉がノックされる。


「Come in」

「I'm here」

「Yep yep yep。チャーリー、出かけるわよ。ハンター試験を受けるの。Okay?」


 チャーリーは胸の前で腕をクロスさせた。私も同じ仕草で応える。どれが誰だか分らなくなるウンパ・ルンパを個体識別するために名前を服に縫い取っていて、チャーリーの胸にはウォンカ社のWを二つ重ねたマークと名前が縫い取られている。


「そろそろ十分ね。Grind and pound(原型もないほど粉々にする)はどこに置いたかしら……」


 ネテロ会長用をどこに入れたのだか分らなくなっちゃった。


「Oh?――Thank you」


 チャーリーが袖を引っ張ったから見てみれば、探しているのとは別のところからチャーリーが取り出して差し出してくれていた。Grind and poundは粉々という名前だけど、一口サイズのクッキーだったりする。


「チャーリー、Come on in」


 鞄を開けて中に入るよう言い、中で三角座りしたのを確認してからジッパーを引いた。


「Well……」


 グリンドアンドパウンドを口に放り込み噛み砕く。頭から引っ張られるような感覚に襲われ、一瞬のうちに着いたのは――会長室。ハンター協会の会長室だから本来ならアポイントメントもなしに来ることはできないけど、私はウルトラCで来ているからそう関係ない。


「Long time no see(久しぶりね)、ネテロ」

「おお、久しぶりじゃなリリー。共通語を話してくれるともっと嬉しいのじゃが」


 席を立って迎えてくれたネテロ会長とハグを交わし挨拶する。


「私から英語をとったらただの変人しかのこらないわ、You see? 私にただのそこら辺にいる変人になれっていうの?」

「そんなことは言うとらんよ。ただお主はエイゴなんぞ話さなくても十分キャラが立っとると言っておるのじゃ」


 まあ、このような話し方になったのはここに来てからなのよね。この世界では英語や日本語は古語にあたり、この世界にトリップした私は一からここの言葉を覚えなければならなかった。私には発音が難しいこっちの言葉を話すのは大変で、かつて広域に流布していた英語を混ぜることでなんとか会話を成り立たせられている。そのせいでウンパ・ルンパ達との会話にも英語がつい出てしまうのだけど。日本語だけの生活が懐かしい……。


「知っているでしょう、ネテロ。私はまだこっちの言葉がとくいじゃないのよ」

「聞いてはおるがね、十分流暢じゃと思うのじゃがなぁ」


 不満そうなネテロから体を離して向かい合う。豆みたいな人が緑茶を持ってきてくれたから座って有難く頂き、一息吐いた。


「チャーリー、Come on。ネテロのまっずい茶菓子をいただきましょ」

「酷い言いようじゃ……」


 鞄から出てきたチャーリーと二人で茶請けの和菓子を分けっこして食べ、あまりの質の低さに顔をしかめた。せっかく私がお菓子のあるべき味を広めてるって言うのに、どうしてこうも不味いままなのかしら?


「何も私はいきなり一流の味を出せってわめいてるわけじゃないはずだわ。せめてブ○ボンていどの味が欲しいの。ゴ○ィバやメ○ーチョコレートのレベルなんて求めてないのよ?」

「お主の言う、そのブル○ンやゴディ○が分らん」

「日本に帰りたいわ……。I hate such an...an amazing sweets(こんなショッキングなお菓子なんて食べらんないわ)」


 ため息を一つ吐いて足を組み直す。チャーリーが膝を揃えて座りなおした。


「さて――で、私は二次試験から参加するのよね。試験会場にはまだ行かなくて良いの?」

「いや、そろそろ飛行船の準備が終わる頃じゃろう。乗って行くぞい」

「Okay。どんな試験なのかしら、たのしみだわ」

「二次試験はアレじゃ、美食ハンターの二人が試験監督じゃぞ」

「……はぁ」

「メンチとブハラじゃ。ブハラとは会った覚えがあろう?」

「ねえ、今回の試験、第何期だったかしら」

「第287期じゃよ」


 あら?……あらあら?


「Wow、楽しくなってきたわ」


 思わぬ偶然だけど、なんと言えば良いのかしら、これは運命なの? ならとっても素敵ね。

 そして飛行船の準備は終わり、私は二次試験会場に向かった。













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 ネタもどきで書いていたハンタ×チャーリーとチョコレート工場の秘密。
04/27.2011

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