電話一本ですぐ参ります2



 基本的にオレ、キース・ルシフェルは根無し草だ。隠れ家はあるが本宅はない――いくら義賊を気取ったとしても恨みを買う時は買うからな。自宅でまったりしているときに襲撃なんてされたら、泣きながら相手を撲殺してしまうこと間違いない。


「なのに、なんで兄貴がいるのかねぇ」


 隠れ家はその名の通り隠れるための家だ。ヨークシンで幻影旅団が暴れまわってしばらく……ウボォーを遊戯王カードで死者蘇生した後パク姉さんの呪いを破壊したオレは、さっさとあの場をずらかった。ルールブレイカーって便利だよな。

 で。まだみんなにバレていないはずの隠れ家に引きこもって一週間が過ぎた今日、買い物から帰ってきたオレを出迎えてくれたのは我が災害の兄貴だった。最愛なんかじゃない、災害だ。


「兄が弟の家を訪れることに問題があるのか?」

「大有りだクソ兄貴。――オレは兄貴の面倒事には巻き込まれたくないんだよ」

「キース……」


 でもオレはやっぱり、今回も兄貴を許してしまうんだろう。兄貴がオレを育てるために頑張ってくれたことは知ってるし、いつもの災害も兄貴に悪意はないんだって分かっているから。


「一週間だ。一週間たったらオレはこの隠れ家を捨てるからな!」

「ああ、キース」


 畜生、兄貴に甘いことはよぉおく分かってるさ! けどな、そんな捨てられた子犬みたいな目をされたらつい許したくなるのはわかるだろう?

 自堕落に過ごしたこの一週間を振り返り、明日から始まる規則正しい生活を思ってため息がこぼれた。だって兄貴は――






「もう七時半だ、起きろキース」

「ううう……あと三時間……」

「起きなければお前の恥ずかしい写真をフェイタンに送り付ける」

「起きます今すぐアハハハハ爽やかな朝だなぁー」


 十三歳の時にマチやパクに無理やり着せられたメイド服、猫耳フード付きパジャマ、甘ロリ。生まれた時から自我のあった、かつ男として肉体が成長し始めていたオレの心を砕くには十分すぎる仕打ちだった。最後らへんにはもう諦めたというか開き直って「おかえりなさいませ、ご主人様☆」とか言ったりしたが、もう二度と思い出したくない黒歴史だ。

 それがフェイタンにバレてみろ、ただでさえサドっぽい顔を笑みに歪めてオレをいじめるに違いない。

 ほかにも黒歴史というべき性的嫌がらせはあまたあるが、証拠が残っているのは無理やり女装させられた時のだけだ。


「よし。――朝食はできている。食べるぞ」

「うーい」


 アメリカンに目玉焼きとトースト、キャベツとキュウリのサラダ。兄貴にはこれが慣れた朝食なのかもしれないが、心はいつまでも日本人のオレには味噌汁白米納豆が一番だ。だがそれを兄貴が知るわけがないから――心の中で泣きながら食べるわけだ。パンなんかじゃ力がでない。白いおまんまでこそ元気百倍なんだ。


「不味いか」

「いや、美味しいよ」


 ただ朝食にコーヒーを飲むのに慣れないだけだ。

 ――こうして、オレと兄貴の規則正しすぎる一週間は幕を開けた。もっと惰眠をむさぼりたかった……昨日もっと寝ておけば良かった。三時くらいまで布団にかじりついていればよかった。睡眠時間がきっかり七時間半なんて信じられない。汗を拭うふりをしてこっそり漏れた涙を拭う。眠い。













+++++++++

 甘いけれども教育熱心な兄貴、クロロ。
2011.04.21

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