ドリームメイカー16



 一度、かつて姫若子と呼ばれていた銀色の鬼さんと会ったことがある。父上と怒鳴りあうように会話してた二人はでも、仲は悪くないようだった。声に険がなかったし。


「おっ、コイツがテメーの息子かい? 頭の良さそうな面してるじゃねーか」


 呼ばれて入った部屋には父上と西海の鬼とがお酒を次々に空にしていってて、酒臭さに吐き気がするほどだった。当時のオレはまだ三歳でお酒とは無縁だったし、今のオレも当然無縁だ。一生関わり合いになりたくない飲み物だよな、お酒って。あの独特の香りがどうにも好きになれない。飲むならチューハイ、それも軽いやつだけだ。

 将来が楽しみな面だとオレの頭をかき混ぜた元親さんに、父上にはない「男は黙って背中で語る」器のでかさを見た気がした。父上は――どちらかといえば天災だから。地震雷火事親父の雷だから……。








 で。今オレの前で柔らかそうな笑みを浮かべているのはその西海の鬼、の昔の姿――ゆるくウェーブした銀髪で顔の半分を包帯で覆った様子は痛々しいとしか言いようがない。で、今のオレは彼女、じゃなかった彼の遊び相手として城への滞在を許されている。なにせ暗殺者にしては軟弱すぎるし幼すぎる。長宗我部さんちの皆さんはオレがきっとどこかの弱小豪族の子供が夜逃げか仲間割れか、海に慣れぬくせに一家揃って小舟で沖に出たのだろうと――かなり失礼かつ想像の翼が羽ばたいている推測を立ててくださった。いや、うん。良いんだよ、疑われるよりは。でもそんな壮大な過去を作られた身からすると笑えば良いのか泣けば良いのか分かんないよ。

 自分たちの仮説に自信を持ってるらしい皆さんのキラキラした視線が痛かった。

 朝食を頂いて女中さんたちが膳を片付けるのを見送り、食後のお茶と楊枝でシーハーしてたオレの手を弥三郎が引っ張った。待って、あとちょっとお茶が残ってるから。


「太郎ー! かるたしよっ!」

「はいはい、じゃあ何する?」


 オランダやなんやと交流のある港の国だから、船員の暇つぶしになるゲームも入ってくる。久しぶりに見たジャッククイーンキングの絵柄に懐かしさと微妙な違和感を感じなくもない――昔のトランプって絵がグロいな。


「ボクばばぬきが良いな」

「ならババ抜きにするか。ジジ抜きじゃなくて良いんだよな」

「うん、ばばぬきが良い!」


 弥三郎に手を引かれて部屋へ小走りする。身内全員で食事をとる長宗我部家では日に二回広間に集まることになる。子供部屋が遠いから面倒だと渋る弥三郎をなだめるのもオレの仕事だったりする。


「太郎はいっぱいげえむ知ってるから、好き!」

「あ、有難う」


 満面の笑みで言われた告白じみた言葉に一瞬顔が熱くなったけど、すぐに弥三郎の性別と将来の姿を思い出して頬の熱は冷えた。早く姫若子を卒業してくれないとオレの将来がとても危ない気がする……。














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主人公の性格が微妙に掴めない。久しぶりすぎて。
04.12.2011

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