ウジャト越しの黒歴史2



 万屋を名乗るあの白髪が、ちょうどオレたちの隣のボックスに座った。のんきな声でスペシャルメガチョコレートパフェくださいという奴に胸焼けがした。オイオイオイオイオイ!? メガってあれだろ、多くの甘味好きたちがトライしては撃沈していくことで有名なあれだろ!? お楽しみメニューで、食べきったら無料だが食べきれなかったら五千円払わされる――と、壁に貼ってある紙に書いてある。


「おや、万屋じゃないすか。トシにょん会いに行かねーんで?」

「なんだそのトシにょんってのは。それにどうしてわざわざ話しかけに行く必要がある」


 正面に座った沖田がニヤニヤと笑いながら言ってきたのを無視し、マヨネーズをたっぷりかけたコーヒーを胃に流し込む。美味い。


「コードネームも分らねーんですかい? もしこっちの話声が聞こえても、まさかあの副長がトシにょんなんて呼ばれてるとは思わねぇでしょう」


 ケッケッケ、といやな笑い声をあげるコイツを外に放り出したくなった。いっそのこと本当にうっちゃってやろうかこの野郎。


「向こうのことは気にすんな」


 面倒を起こしてないなら何も言う必要はねぇ。なぜか涙眼の店員にコーヒーのお代わりを頼み、むかつく餓鬼とストレスの溜まる時間を過ごす。てか、なんなんだこの組み合わせは? なんで沖田と一緒なんだ。これならまだミントン野郎と一緒の方がマシだ――顔が思い出せねーが。

 と、隣から女の餓鬼の声が聞こえてきた。


「ホレホレ銀ちゃん早くゲロるよろし! 白夜叉って何あるか!?」


 沖田が顔を上げる。オレも自然と耳をそばだてた。白夜叉――それは天人にとってはこれ以上なく憎むべき敵であり、攘夷派にとっては誰よりも頼りになる特攻隊長の通称だ。白い髪に紅い瞳の男だということしか聞かねーが……白い髪に紅い瞳? すぐオレの近くにいるコイツも、白髪に赤目じゃねーか。


「うん聞こえない聞こえない聞こえない聞こえねーンだよ! 神楽が何か言ってるみたいだけどオレには関係ないのさようならまた来週!」


 万屋が頭を抱えながらそう叫ぶ。それはつまり、詳しいことを知っているという意味だろう。


「銀ちゃん!」

「僕も知りたいです。銀さんって攘夷派の人と顔見知りみたいですけど、一体昔に何されてたんですか?」


 男の餓鬼も参戦して万屋に説明しろと騒ぐ。コイツらは子供だから知らねーんだろう……白夜叉は恐怖の代名詞だってことをな。

 噂でしか知らねぇが。白夜叉はたった一言で血の気の多い奴らを熱狂させ、敵だった天人を恐怖に陥れたそうだ。特攻すればその前に天人の死体が道となり、殿となれば味方を誰一人として欠けさせることなく守り切ったという。

 オレも沖田も、状況は違えど守る立場の人間だ。もしあの白髪が白夜叉だってなら――その強さをこの目で見たい。

 餓鬼二人がせがむのに白髪は憂鬱そうにため息を吐き、そして噂が真実だったと知った。


「そんな……じゃあ、銀さんは」

「そ。オレも元は攘夷派だったの。もう戦いには関わり合いたくねーって言ってんのに、アイツらは諦めないんだよなあ……。ホント、どうにかならんもんか」


 万屋の言葉は重く、勝手に聞いてしまったことを後悔するには十分過ぎた。三人は会計を済ませると喫茶店を出て行き、残ったのは――冷めたコーヒーと、常温になったマヨネーズだけだった。













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 ウジャトが人気^^他人視点と本人視点の温度差がでかすぎる件。
11/16.2010

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