あの子と一緒
私が四十三番、ヒソカ少年が四十四番。人数合わせのために試験受験者を一人殴って気絶させて病院の前に放置してきたから、今後の展開に問題はないはずだ。ついでに殴ったのはポドロ氏だ。殺されないだけましだと思ってほしい。
「ふむ、ヒソカ少年」
「なんだい?」
最終的には三百人を超す人数が集まるこの地下百階だが、今のところ私とヒソカ少年の後から入ってきた三人を足して四十七人しかいない。つまり周囲の四十五人は敵だということだが、どうしてか私は憐みを含んだ目で見られている。敵同士だろうになぜそんな目で見るのだかさっぱり分らない。
「どうして私はああいう目で見られているのだろうか? 私は私が可哀想だと思ったことは一度もないのだが」
「んー……彼らには由麻の考えが分らないからだよ☆ 由麻にとっての幸せが彼らにとっての幸せと同じわけじゃないだろう?」
「その通りだが……」
私はヒソカといて『平気な』顔をしているつもりなのだ。喜んだりや楽しんだりといった顔をできていないとは分っているが、私は私の意志でヒソカ少年と行動を共にしているというのに何故分らないのかが理解できない。顔をしかめながらそう言えばヒソカ少年が私を抱き込んで頭のてっぺんに顎を乗せる。身長差が悲しい。
「由麻がそんなにボクのことを思ってくれてるなんて☆ でも、由麻の気持ちはボクだけが分ってれば良いんだよ☆」
「ノブナガは?」
「あれもダメ☆」
「私の養父なのだがなぁ……」
ノブナガは良い父親だ。父性的というのか――私のすることを黙って見守ってくれるうえ、困っている時には手を差し出してくれるがべったりはさせない。さっぱりとした、だが隙間風はない関係を築けていると思う。これでも五年近くを一緒に過ごしているのだ、お互い気心が知れるのも当然と言えば当然だろうが。
「――おや?」
じゃれついてくるヒソカ少年を適当にあやしながら過ごしていると、反応の薄い私に焦れたのかヒソカ少年が体を離した。
「ちょっと遊んでくるよ☆」
「殺しまではするなよ」
「分ったよ☆」
ヒソカ少年は仕方ないなとばかりに肩をすくめ、さっきよりもまた更に増えた受験生を見まわし舌舐めずりした。うむ、本当に変態だな。
「由麻はここで待っててね☆」
「ああ、他にすることもないのでな」
たとえば読書をするにしても、試験に本を持ってきてどうするという話だ。携帯はあるがこの地下百階に電波が届くかといえば否。背負ったカバンの中には調味料などしか入れてきていない。
寝ようか、と一瞬考える。この場で寝る――自殺行為だ。私が誰かに殺されると思っているわけではないが、ヒソカ少年が私の寝顔を他人に見せるわけがない。周囲は血だまりで決定だ。
壁に背を預けてぼんやりとエレベータの扉を見ていれば、数分とせずにウィーンと開いた。出てきたのはなんとキルアで、マーメンというコルトピと同じ種族としか思えない小人に九十九番のプレートを渡されている。
「物語は始まる、か」
今日、物語の針は動き出すのだ。
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原作軸。ノブナガとの親子生活は番外編だね 11/12.2010
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