あの子を探して8
気が付けば僕が住んでいた場所だった。街というにはおこがましい、そして町というにも相応しくない、村――以下の場所。貧しい人間しかいないし、文字を書ける人間なんてここでは一握りもいない。僕は母親が昔中流家庭の出身だったから、おまけで勉強できたようなもの。父さんは現場の事故で死んだし、母さんは職がなくて体を売った。残りの家族は好きでもない獄潰しの弟が二人、父さんの子供は僕だけ。広場の真ん中で呆然と立ち尽くしていた僕を見つけ、弟たちが絡んできた。
「どこ行ってたの、ヒソカ」
「どこだって良いでしょ」
「ねえ、それ何? 本って言うんでしょ、それ。どこで盗んできたの? 服も新品だね、ねえ、どこで盗んできたの?」
「盗んでないよ」
「うそだぁ」
好きじゃない――嫌いな弟たちの手はなんだかすごく汚い気がする。父さんの子供じゃないからじゃあない、生まれ持った雰囲気が嫌いなんだ。国語辞典と漢字辞書に手を伸ばした弟たちの手を払う。これは僕がユマさんにもらったんだ。触らせたりするもんか。
「ねえ、それ何て書いてあるの」
「ヒソカ読めないんじゃないの」
「読めるよ、君達と一緒にしないでくれる」
本を抱えて走った。家に帰ったからって言って隠し場所があるわけじゃないけど、あの弟たちからとりあえず逃げるには家がちょうど良い位置にある。
狭い家に飛び込めば、お母さんがベッドに横たわってうとうとしていた。僕を見て目を見開く。
「――ただいま」
「ヒソ、カ?」
「うん。ただいま、お母さん」
あの日、僕は家に帰りたくなかった。またお母さんの妊娠が分ったから――お母さんは中絶をするお金もない。
お母さんは美人だ。僕はお母さんに顔が似てるらしいから将来はお母さんみたいに美人になるんだろう。お母さんは顔で客を取っている――お金持ちのお客なんてつかないけど、いつも街角に立てば必ず誰かが声をかけてくるらしい。お父さんが生きてた頃は良かった。――お父さんが生きてたら、僕は弟を愛せたのかな。お父さんの子供だったら。
「それ、どうしたの……?」
「もらった」
「そう――変な文字ね」
「うん、ひらがなとカタカナと漢字って言うんだって」
「ふうん、沢山あるのね」
「僕を見つけてくれた人がね、教えてくれたんだよ」
「良かったわね、ヒソカ。素敵な人だったの?」
「もちろん! ユマさんって言うんだよ。とっても料理が上手くてお金持ちで、お肉とかも簡単に買えちゃうんだ」
あの時、ハンバーグって言って、作ってもらえるとは思ってなかったんだ。
「そう、良かったね……」
「うん、うん――とっても良い人だったんだ。だからお母さん、安心して」
お母さんの顔は青いを通り越して白い。こんな人は今までに何人も見てきたから、お母さんがどうなるかなんて見ればすぐ分った。
「僕は大丈夫だから、ね」
お母さんの手を握って微笑みかける。
「だから、お休み」
お母さんは自然に眠った。――もう目覚めないけど。
薄いベッドの端に腰かけ、本を横に置いてポケットからストラップを取りだした。小さな写真――指をVにするユマに満面の笑顔の僕。
「ユマ……」
握り締めて額に当てた。
今すぐ会いたいよ。
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オリジ展開ここに極まれりですが、気にしちゃダメです。 11/06.2010
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