風紀委員長になったら8
中間試験も終わり、時々授業にちゃんとついていけているのか確認してやりながら平穏な毎日を過ごす。綱吉は僕が勉強を見始めた時よりだいぶマシになったようで、小六のドリルで満点を取るようになった。これならそろそろ中学生用のドリルに移っても良いかもしれない。
そんなことを考えてたらいつの間にか鼻歌を歌っていたらしい。きょうやがご機嫌だねと声を掛けてきた。
「え、そうかい?」
『そうだよ。君がこんなに楽しそうな姿を見たことなんて滅多にないのに』
どうしてかきょうやは不機嫌そうだ。きょうやを不機嫌にさせるなんて僕の馬鹿! 何よりも僕が優先するべきはきょうやの楽しみであって、僕がきょうやの機嫌を悪くさせるなんて言語道断。
「すまない、きょうや――君が嫌ならもう彼のことは考えないようにする」
僕が一番に優先すべきはきょうや。綱吉も可愛いとは思うけど、僕のすべてはきょうやの物だから。きょうやがいなきゃ僕は存在しないしきょうやが僕の世界の中心。僕が群れを咬み殺すのも並盛を支配するのも全てはきょうやのため。きょうやが楽しむことが最優先なんだ。
『別に、僕もそんな狭量な人間じゃないよ。ただ××が大好きって言う相手は僕だけなんだからね』
「きょ、きょうや!!」
なんて可愛いんだ! リアルツンデレにお姉さんドキンときたよ! 今はもうお兄さんだけどね!
「愛してるよきょうや――命をかけて愛してる」
『当然でしょ? ××は僕の物だし、僕は××のものなんだからね』
ツンデレきょうやにニヘニヘとしてると、きょうやがどこかに注意をやってニヤリと笑んだ気配がした。
「どうしたんだい、きょうや?」
『何でもないよ』
はぐらかされ、僕は内心首を傾げながらきょうやにふうんと返事をした。
雲雀さんと一緒にいると心がふわふわして、柔らかくてあったかい気持ちになる。雲雀さんの笑顔が見たいし雲雀さんの声が聞きたいし、なにより雲雀さんと過ごす時間が――とても好き。忙しいのにオレの勉強をみてくれるし、皆が噂するのとは全く違って優しい。
雲雀さんの笑顔を見たくて、勉強を頑張ったねって誉めてほしくて今日も応接室へ向かうんだ。
昨日の晩にした分のドリルを手に応接室への廊下を歩く。雲雀さんが怖いからか誰もここらには近づかない――静かな廊下に上履きのペッタンペッタンという音が小さく響いた。応接室の扉が厚いとはいえ足音も邪魔かもしれない、なんて思ったのが間違いだったのかな。それとも、今日応接室に行ってしまったことこそが誤りだったのかもしれない。
応接室から漏れ聞こえる声は一つだけで、雲雀さんはもしかすると誰かと電話中なのかも。電話が終わってからノックしようと思って扉の前で待機する。早く電話終わらないかな……。
「もう――ことは考えないことに――」
何の話だろう? ちょっと気になって耳をそばだてる。
「きょ、きょう――!!」
「愛してるよ――や。命をかけて愛してる」
雲雀さんの声に顔が凍りついた。ドリルを抱えた腕が震える。そんな、ああ、そんな――
何よりも愛しいものに囁くように捧げられたその言葉は、訳も分からずオレの心をえぐった。なんでこんなに悲しいんだ? 雲雀さんだって好きな子の一人や二人いるに決まってるじゃないか。それが何でこんなに――なんでこんなに、苦しいんだろう。
「雲雀さんの……雲雀さんの、ばかっ……!」
廊下の端の窓から身を乗り出して――思ったよりも大声が出なかったけど――叫んだ。胸が張り裂けそうで、苦しくて、泣きたくて。床に散らばったドリルが赤い花丸のついたページで開いていた。
よく頑張ったね、のきれいな文字がなぜか今は切なく感じられた。
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きょうやは雲雀主が盗られるのではと思い一策を講じ、ツナはハマって泣いてしまった、な話。 10/27.2010
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