黒炎を孕む風12



 元就はオレがいないと深く眠れないと文句を言う。オレは空気ほどに気配を隠しているつもりだが元就には分るらしく、オレの薄い気配が感じられないと安心できないのだとか。忍びとして嘆くべきかそれとも恋人として喜ぶべきなのか。どこの大名も同じだろうが、大名と言うのは激務だ。今は戦国乱世、下剋上など各地で頻繁に起きている――元就の座を狙う者も多く、戦場でなくとも気を抜けない。だから唯一気を抜いていられるオレと一緒にいたがるのは分るんだが。


「元就様、これではすぐに動けないのですが」


 オレを後ろから抱き締めて休みをとる元就に言えば、黙っていろとばかりに腕に力が込められる。


「黙って貴様は我に抱かれておれば良い」


 首に頭を擦りつけながら言われるとほだされるというかなんというか。細くて柔らかい元就の髪が首筋にあたってこそばゆい。小太郎君は我慢の子――! とか馬鹿なことを考えながら笑わないよう耐えていると、体に力が入ったのを勘違いした元就がギュウギュウに絞めつけてきた。拷問よりはマシだがなかなかキツい。


「我に抱かれるのは嫌か」

「いえ、嫌ではないですが?」


 だからこそ逃げ出していない。嫌だったらすぐに天井裏へ逃げている。それよりも言葉を少し変えてくれると有難いのだが……それでは衆道の交わりのこと言っているようで気恥ずかしいものがある。せめて「抱きしめる」と言って欲しい。


「なら何故――」


 元就の手がオレの顎を掴み仰け反らせる。ちょっと痛い。


「身を強張らせているのだ」


 声も不機嫌だが顔も不機嫌を体現したような表情を浮かべている。釣り気味の目が更に釣り上がり、失言すれば命はないと悟る。信頼を裏切られた気分なのかもしれないが見当違いも甚だしい。――信頼できる部下が少ないからか? 信頼を置いている部下だからこそ裏切られたくないんだろう。


「こそばゆいのですよ」


 だからオレは微笑まなければならない。元就は人間不信の気があり、一度懐へ入れた者でなければすぐに切り捨ててしまえる非情さを持っている。


「元就様の髪が首筋に当たってこそばゆく、笑ってしまいそうなのを我慢していたんです」


 元就がオレ以外に信頼している人間は三人かそこら。自分の領地、それも城の中ながら気を休めるべき場所はない――まさに孤軍奮闘と言える元就を支える腕は少なく、一人欠けるだけで元就の心の支えは決壊する。

 だから元就の伸ばす手を拒めないんだよな……内心そうため息を吐いているなど気取らせずに、オレは元就に背中を押しつけた。ほだされているとは分っているんだが、この寂しがっている目が昔のオレにそっくりで。


「そうか……」


 そのまましばらく二人で黙ってすごし、元就の疲れが取れた頃また仕事へ追い立ててやった。










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 なんだかほのぼの。お色気バージョンを作るかはみなさんの声次第☆ とか半分冗談で言ってみる。
2010.10/17

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