いらっしゃいませー17
鬱々とした空が広がる――やっぱり森。ここはどこかしら、とやっと見つけた標識を見れば北アイルランドだった。
「北アイルランドとかどの世界か分んないってぇ……とりあえず町に行こっか」
円をしたところ周囲数キロには人っ子ひとりいない。毎回森の中に放り出されるのは勘弁して欲しい……。
「町まで――三キロかぁ。ゆっくり歩くのも良いけど、今日はなんかぞわぞわするから早く行って早く帰ろ!」
「分った」
あんまり良くないことが待ってますよ、と教えてくれる超直感に従うことにした。恭弥を抱き上げて走り出す。腕の中で恭弥が居心地悪そうにもぞもぞしてるけど、ほんの数分間の我慢だから辛抱してねー。
「――ここ、は……」
地方都市ベイドリック――ヨーロッパの整然とした企画された街並み、の、外れ。血臭が漂うとある宅。
「はははははははッ! 逃げろ逃げろ吸血鬼!! はははははは」
中から聞こえてきた、そんな狂気じみた声にげんなりとする。まさかアンデルセン神父が私の嵐とか――うわぁ。嫌だ。それは断固として拒否! だって怖いもん。せめてセラスちゃんが……いや、途中で理性飛ばして暴れまわられたら大変だ。アーカード? アーカードも怖い人、っていうか鬼なんだけど。
「恭弥、ここからは人外魔境の地だよ、恭弥はただの人間で一度殺されたら死んじゃうからここに残っててねぇ。ちょっと私の嵐を見つけてくる」
「ということは一度や二度殺されても死なないんだね、夏輝」
「……うん」
ボカァ死にましぇーん。恭弥が本格的に私を人外を見る目で見てきてる気がする。
「あッ、出ッ――出ぐ……」
開け放たれたというより扉が壊されたドアにセラスちゃんが手を伸ばす。私は絶をしながらドアへの階段を上る。出口に張られた結界に撥ねられ絶望と驚愕がない交ぜになった顔のセラスちゃんが目の前に。
「なッ! ええッ?!」
ドアの上に楔で貼り付けられた結界を見上げて慌てふためくセラスちゃんにアンデルセン神父の愉悦の混じった説明が入る。
「それが『結界』だ小娘。おまえたち夜の勢力共にそれを突破することは不可能だ」
夜の勢力じゃない私には無駄以外の何物でもなんだけどねー☆ 一歩中に入り絶を解けば、溶け出るようにして現れた私にセラスちゃんが変な声を上げてる。
「な、子供? ああ、あなた危険だから下がって!」
子供……時々会うヴァリアーの皆も私を子供扱いする。精神年齢は低くないしもう十二だっていうのに、七歳かそこらの子供にするみたいに甘やかしてくるから無性にむかつく。
アンデルセン神父がいぶかしげに眉根を寄せつつ吐き捨てた。
「誰だ、貴様は――吸血鬼ではないようだが」
「人間だよー。ただちょっと、普通の人類とは違うけどね!」
パシンと手を合わせ、金属製の窓サッシに手をかざす。サッシが消えガラスが落ちる横で刃渡り五十センチほどの刀が錬成される。
「不思議な力だな」
「錬金術って言うんですよぉ」
「今は貴様などどうでも良い――邪魔をするな。私はそこの化け物を皆殺しにしなければならないんでな」
「それを止めるために来たってこと、分りませんか」
互いに武器を向け合いつつそんな応酬を交わす。
「化け物に味方する異教徒め――神の鉄槌の前に死ぬが良い!」
「あぁもぉ! 昔に読んだ時から思ってたけど人の話を聞かないねこの人!」
異教徒は死ねって、どんだけ横暴なの。まあキリシタンじゃないから異教徒だけどそう言う問題じゃないでしょ!
「あっ、アーカード様?!」
私の後ろでセラスちゃんがアーカードと何か話してるみたいだけど、大声を出さないで欲しいなぁ。せっかくこっちに集中させた注意があなたに向いちゃうでしょ!
とりあえず今私がすべきことは。アンデルセン神父の迎撃とインテグラの到着までのセラスちゃんの保護――ただ嵐の守護者になって戦ってもらうだけにしてはこっちの負担が大きい気がしないでもないけど。交渉のテーブルにはつけるよね。
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一ページで終わらない、それがヘルシングクオリティ。 09/26.2010
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